「コロナ禍でデザイナーの必要性が一気に高まりました」そう語るのは、株式会社ベルフェイスでセールス・マーケティングを統括するゼネラルマネージャーの岩田さん(取材当時)。
オンライン営業システム『bellFace(ベルフェイス)』を提供する同社は、コロナ禍での営業活動を支援するため、2020年3月~5月にかけてサービスの無償提供に踏み切りました。機を見るに敏な判断が功を奏し、問い合わせ件数は激増。一方で、『Zoom』を中心としたWeb会議システムとの比較も激化し、失注・解約も増えたといいます。
そうした激しい市場変化のなか、同社はマーケティング専属のデザイナーを初めて採用しました。今デザイナー体制を強化する理由は一体なんなのか。今回は入社されたデザイナーの杉本さんも交えながら、コロナ禍における『bellFace』の競争環境、デザイナーの採用背景や具体的な成果などをお聞きしました。
『Zoom』は競合ではなく「共創相手」
――まずは御社の事業内容について教えてください。
岩田さん:
当社は設立6期目の会社になりまして、オンライン営業システム『bellFace』を開発・販売しています。2020年2月に52億円の資金調達を実施したのですが、今はそれを元手に人材採用に注力しているところです。
ただ、採用を強化しているといっても、事業をマルチに広げることは今のところ全く考えていません。あくまでも、『bellFace』の事業拡大と、「オンライン営業」という新しい手法の成功率を上げる支援に一番人手を割いています。
オンライン営業の仕方をレクチャーし、最適な営業組織を一緒に作りながら、売上を伸ばすところまで伴走する。そうしたお客様毎のコンサルティングを一貫して提供しています。『Zoom』となにが違うのかと訊かれることも多いですが、ここは明確な差別化ポイントの一つになります。
――コロナ禍以降、Web会議システムの需要は飛躍的に伸び、とりわけ『Zoom』を導入する企業が増えています。その点はどのように捉えていますか?
岩田さん:
最近よく訊かれる点ですが、『Zoom』は競合ではないと捉えています。そもそも、Web会議とオンライン営業では必要となるシステム・機能が異なります。また、『bellFace』が中長期的に目指しているのは、デジタル化が遅れている営業領域のデータを収集・解析することで企業経営をより良くする、営業特化型のプラットフォームなんです。
そのため、まずは『bellFace』のお客様を増やしていきながら営業活動のデータを貯めていく必要があります。オンラインはデータを集めるという点で相性が良いわけですが、将来的には電話や対面も含めた、あらゆる営業シーンのデータを集めていきたいと考えています。
しかし一方で、オンライン営業ツールの導入検討時には、必ず『Zoom』などのWeb会議システムと比較されるという目先の現実もあります。短期的には競争は生まれており、お客様の目からするとライバル的な関係があるように映ってしまうでしょう。現場のセールスメンバーも、オンライン営業のデータを可視化できる、電話を起点にコミュニケーションが取れるなど、機能的価値の違いを試行錯誤しながら伝えています。
ただ、短期的な視点だけで競合として敵対するつもりはありません。今後はより領域を切り分けながらうまく共存していきたいと考えています。一緒になにかイベントなどできたら面白いですが、オンライン営業の市場を共に大きくしていけるような関係性が理想です。
激動のコロナ禍、再認識した“競争優位性”
――コロナ禍は御社の営業やマーケティングにどのような影響を与えましたか?
岩田さん:
大きなところでいうと、顧客層がガラッと変わりました。コロナ禍以前は、IT業界、広告業界、人材業界などの、比較的IT導入が積極的なお客様に多くご利用いただいていました。「競合は商習慣」と社内でよく言っていましたが、失注理由の大半は「うちのお客様は対面営業が根強い会社だから訪問しないといけない」「BtoCでオンライン営業は難しい」というものでした。
コロナ禍以降はそれが激変しまして、金融業界や不動産業界、保険業界といった、特にBtoC営業をされているお客様からのお問い合わせが増えました。無償提供の効果もあり、お問い合わせ件数が月1,000件から月10,000件と爆発的に伸びたわけです。
しかし同時に、『Zoom』『Google Meet』『Microsoft Teams』といった主要なWeb会議システムと頻繁に比較されるようになり、「費用」を理由とした失注・解約も増えていきました。
――コロナ禍は追い風であると同時に、向かい風として競争環境はより激化したということでしょうか。
そうした側面はもちろんあります。ただ、費用が理由の失注・解約が一定数あるのは仕方がないことだと思っています。基本利用無料のツールと有料の『bellFace』では、価格軸ではそもそも比較にならないからです。ここで大切な比較軸は、システム導入として考えたときの「費用対効果」と「導入障壁」になります。
営業の生産性を最大化させるためには、限られた商談時間のなかで100点満点のプレゼンテーションを行わなくてはなりません。なので、現状の商談は何点なのか、課題はどこにあるのか、PDCAをどのように回していけばいいのか、といったデータの可視化・解析が必要になります。
すでにWeb会議システムでオンライン営業をされている場合は、かけている費用に対して効率的に売上を伸ばせているかどうか、費用対効果の見極めが大切です。
また、改めて認識できたことですが、コロナ禍においても訪問営業を止められない業界というのはどうしてもあるんです。「うちのお客様は対面営業を望んでいて〜」と、依然として商習慣に悩む声が多い。コロナ禍でオンライン営業がスタンダードになったようにも見えますが、全くそんなことはなく、オンライン営業の導入障壁が高いお客様はまだまだ多くいるのが実情です。
そうしたお客様には、電話営業の延長線上にある『bellFace』の価値が特に活きてきます。アプリのインストールやURLの共有など事前準備がいらず、電話営業のプラスアルファとしてオンラインでコミュニケーションが取れる。コロナ禍で改めて、プロダクトの独自性や強みを実感することができました。
「急速な社会変化」に対応するインハウス体制。キードライバーは“マーケデザイナー”
――数ヶ月前にマーケティング専属のデザイナーを採用されたと伺っています。今のタイミングで採用された理由を教えてください。
岩田さん:
当社のデザイナー体制として、プロダクト担当のUI/UXデザイナーは社内に数名いるのですが、マーケティング担当のデザイナーは今まで一人もいませんでした。そのため、新しいクリエイティブが必要になったときは都度外部に発注していました。「専属のデザイナーが欲しいよね」と前々から話はしていたのですが、明確に必要になったのはやはりコロナ禍です。
コロナ禍以降、様々なニーズのお問い合わせをいただきました。先程申し上げたように尋常でない数です。しかし、これは反省すべき点ですが、それに対応できるだけの営業コンテンツやクリエイティブの種類が手元になかったんです。
感覚的にいうと、数パターンだった顧客ニーズが一気に20パターンぐらいに増えたイメージです。また、比較されるWeb会議システムの数が増えたという問題もある。商習慣とだけ闘っていれば売れていた、という状況ではなくなったわけです。
そうしたときに、「スピード感」と「顧客ニーズの把握」という点で、マーケティングにおいてもインハウスデザイナーの必要性が一気に高まりました。急速な社会変化のなかで、多種多様なクリエイティブをそれこそ日替わりで試さなければなりませんし、新たな顧客ニーズを現場で正しく理解して素早く修正をかける必要もあります。
また、各所のメッセージやトンマナも綺麗に揃っているとはいえない状態が長年続いてきました。コーポレートサイト、サービスサイト、オウンドメディア、商談で使う一つひとつの提案書など、すべてのタッチポイントを統一感あるものに揃え、各顧客フェーズの移行率やブランド想起率を高めたいとも考えています。
――杉本さんは現在どのような業務を担当されているのでしょうか?
杉本さん:
私はマーケティング全体のデザインを管掌する立場になるため、様々なチームを横断してビジュアルやコミュニケーションの設計・制作にあたっています。今はサイト改善やLP制作が中心になります。
「この業界に特化したビジュアルはどうか」「こういった切り口のメッセージに変換すればお客様に伝わりやすいのではないか」など、日々試行錯誤しながら各マーケティング施策と連携したビジュアルを作っています。
――「マーケティングのデザイン」をインハウス化されたことで、具体的にどのような成果がありましたか?
岩田さん:
施策スピードと制作物の質が顕著に向上しました。今までは施策毎に都度外部に発注していたので、どうしてもコミュニケーションコストが大きくかかっていました。また、表現の幅にも制限がありWebページは静的なものばかりでした。
杉本さんにはまず新しいLPの制作に取り組んでもらったのですが、スクロールに合わせたインタラクションやページ背景で動画が流れたりなど、今まで盛り込めなかった動的な表現が数多くあり、しかもそれを1ヶ月足らずで素早く仕上げてくれました。初めて見たときは素直に感動しましたね。
杉本さん:
新しいLPはホワイトペーパーのダウンロードを促す内容なのですが、マーケターと密に連携したこともあり、従来のLPよりとても高いCVRを出すことができました。その効果が後押しとなり、リリースした月の月間ダウンロード数は通常より2倍近い結果となりました。
また、セールス・マーケティング以外のメンバーからも「ベルフェイスになかったデザインでかっこいい!」と好意的な声をもらえました。社外向けであっても、デザインをより良くしていくことは従業員のエンゲージメント向上にも繋がるんだと実感しました。
加速する「ベルフェイスのデザイン」
――デザイン需要の拡大とともにデザイナーの採用難易度は年々高まっています。特に中途採用に苦戦する企業が多いですが、今回どういった経緯で入社されたのでしょうか?
杉本さん:
ベルフェイスに転職したのもコロナ禍がきっかけです。前職では大手人材会社で企業向けの研修事業に携わっていました。知人の紹介経由で事業に参画したという縁もありコミットしていたのですが、コロナ禍の影響でどこも対面型の研修ができない状況になってしまいました。
オンライン化へのシフトを急いだものの、クリエイティブやマーケティングの予算は大幅カットとなり、残念ながらデザイナーの必要性も減っていきました。そうしたときに、改めて「デザインをより必要とする環境で経験を活かしたい」と思うようになり、今後のキャリアも見据えて転職することを決めました。
転職に際し、ベルフェイスは私の志向と大変マッチしていました。というのも、前々職は外資系のコンサルティング会社だったのですが、そのときからマーケティング×デザインの掛け合わせで事業をスケールさせる面白味を感じていたんです。加えて、グロース期のスタートアップでなら今までの経験をより活かせるのではないかと思い、今回ベルフェイスへの入社を決めました。
――杉本さんを採用するにあたり、なにか工夫されたことはありますか?
岩田さん:
入社前は、解像度の高い率直なコミュニケーションを意識しました。マーケティング専属という少数精鋭のポジション、変化が激しい環境などに対して、入社後にミスマッチを感じてもらいたくなかったからです。
面談では、デザイナー体制が整っていない当社の実情をありのまま伝えました。その上で、『bellFace』が目指すビジョン、現状のブランディングやUI/UX、マーケティングの現場で期待することなど、上流から下流まで一貫して説明しました。
杉本さん:
会社の現状をかなり把握した状態で入社できたので、入社前後のギャップをあまり感じることなく業務に集中することができました。初のスタートアップで早々に成果を出せたのも、そうした入社前のコミュニケーションのおかげでもあると思っています。
――最後に、「マーケティングのデザイン」において大切だと思うことを聞かせてください。
岩田さん:
マーケティングのデザインに限らないかもしれませんが、顧客志向が最重要だと思います。綺麗なビジュアルは購買行動を強く後押しさせますが、それよりも重要なのは、サービスの価値を正しく伝えられているかどうかです。どういった課題を解決できるのかが正しく伝わらないと、本来買うべきではない、間違った購買を生み出してしまいます。
マーケティング担当のデザイナーには、自身の制作物が顧客にどのような影響を与えるのか、最初のブランド認知から最後のカスタマーサクセスまで追い続けてほしい。そして、キャッチした顧客の声をもとにより良いデザインへと昇華させてほしいと思っています。
杉本さん:
マーケティング上のKPI達成はもちろん大切ですが、短期的な数字を上げるだけではなく、会社が目指すビジョンをしっかり具現化し伝えていくことも大切だと思います。
『bellFace』は「営業特化のWeb会議システム」というイメージが強いですが、それはあくまでも現フェーズの見え方であって、目指すところは「セールスビッグデータを得られるプラットフォーム」になります。
なので将来的には、中長期の経営計画と紐付けながらデザインを整えていきたいと考えています。デザイン組織の構築やブランドガイドラインの整備など、プロダクト担当のデザイナーと連携しながら、一つひとつ「ベルフェイスのデザイン」を形作っていきたいですね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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