面白採用を次のステップへ進めたい」そう語るのは、面白法人カヤックで新卒採用設計・採用ブランド設計を担当するみよしさん。
バズる採用企画の先駆けでもある「面白採用キャンペーン」を10年以上手掛けてきた今、これまでの方針とは異なる新たな企画に取り組んでいるといいます。

一貫して“バズる”にこだわってきた同社の、新たな採用企画とは一体なんなのか。今回はデザイナー新卒採用を軸に、求める人物像や面白採用の歩み、これからの採用企画への考えなど幅広くお聞きしました。

面白法人カヤック(商号:株式会社カヤック)は、「日本的面白コンテンツ事業」を標榜し、オリジナリティを追求したクリエイティブ事業を幅広く展開しています。また、サイコロでボーナスが決まる「サイコロ給」や、検索結果が履歴書の代わりになる「エゴサーチ採用」など、ユニークな会社制度・採用でも有名です。
面白法人カヤック
管理本部 人事
みよしこういち さん
note
筑波大学大学院・数理物質科学研究科を修了後、就職せずボードゲームを作って生計を立てる。シナリオライターの学校やよしもとの学校を卒業後、面白法人カヤックの人事部に参加。 これまでに、バスで日本各地をまわる「旅する会社説明会」や検索ワードだけで応募できる「エゴサーチ採用」、ゲームの上手さで内定を出す「いちゲー採用」などの企画を手掛ける。


カヤックに「求める人物像」は要らない

――まずは御社のデザイナー体制について教えてください。

カヤックには約50名ほどデザイナーが在籍しています。クライアントワーク事業、ゲーム事業、ちいき資本主義事業、その他様々な事業を展開していますが、デザイナーは大体クライアントワーク事業とゲーム事業のどちらかに携わっています。

クライアントワークは広告などを制作するチームですね。Web系の案件が多いですが特に限定はしていなくて、広くデジタルを絡めた広告キャンペーンを作っています。いちプロジェクトのディレクター・デザイナー・エンジニアの構成比率は1:1:2ぐらいです。大きなチームだと総勢10人ぐらいになります。
ゲームはソーシャルゲームやハイパーカジュアルゲームを開発しています。タイトルによって携わる人数はバラバラです。

――そうした体制のなかで、デザイナー新卒採用の「求める人物像」はどういったものでしょうか?

うーん、「求める人物像ってあまり考えたことないんですよね。そんなもん別にないだろ!と。

言葉にはすごい求心力があって、例えば「求める人材像」を作って発信したとすると、それに近い人たち達が集まりやすくなると思います。ただ、裏を返すと、自分には当てはまらないと思った人は応募しなくなるということでもある。

「カヤックらしさ」みたいなものがあるとすれば、それは元からあったものではなく、色んな人が集まって偶発的に生まれたものです。なのでこれからも、集まってきた人に応じて「カヤックらしさ」は多様に変わっていくべきですし、変わっていいものだと思います。「私たちはこういう人を求めています!」と自ら狭めて発信するのは違うなと。

――「求める人物像」がないことで選考で困ることはありませんか?

困ることはないですね。「求める人物像という基準を知れば知るほど人ってそれに合わせたくなるじゃないですか。その会社に入りたいと思っていたら特に。合わせてもらったほうが通常選考はしやすいと思いますが、カヤックの場合は逆に合わせてほしくないんです。

誰かの基準に合わせてしまう人よりも、自分の基準を貫ける人。「どう最近?」と訊いたときに、自分のことを自分の言葉で話せる人のほうがカヤックでは働きやすいと思います。なので、「求める人物像」をあえて言葉にするなら、「素で面接を受けられる人」かもしれませんね。

「求める人物像」や「志望動機」などは、採用活動をスムーズに進ませる便利なツールですが、カヤックでは使う必要はないと思っています。


面白採用の根底にある「つくる人への愛情」

――ユニークな採用企画で知られる、御社の「面白採用キャンペーン」について教えてください。

面白採用キャンペーンがはじまったのは、2008年の「変人採用(※1)」からです。私は2012年以降のキャンペーン、例えば「エゴサーチ採用(※2)」などに携わっています。
※1…「変人」呼ばわりされている人のなかにはキラリと光る才能を持った人がいるはずだ!という仮説をもとに実施した他薦必須の企画
※2…エントリーシートの代わりにGoogleの検索結果を使って選考を行う企画

面白法人の考え方の一つとして、「企業活動自体をコンテンツにする」というのがあります。クライアントワークやゲームで面白いものを作るのはわかりやすい活動ですが、組織作りもなにか面白くしていきたいと考えていました。そうしたときに、コンテンツに一番しやすかったのが採用キャンペーンだったんです。

ただ別に、面白く見られるだけのパフォーマンスをしたいわけではないんですよ。カヤックも、クリエイターも、お互いにとってちゃんと実利のある活動にしないといけない。

例えば「エゴサーチ採用」「いちゲー採用(※3)」ではエントリーシートをなくしました。両キャンペーンの根底には、「クリエイターなら今まで作ってきたもので応募できたほうがいい」「就活のためだけに新しく文章を書く必要なんてない」という想いがこもっています。就活のためだけの無駄な労力はなくして、楽しく就活をしてもらいたいと思っています。
※3…ゲームをやり込んできた実績や協力プレイなどで選考を行う企画

――デザイナー向けの「卒制採用」も卒業制作作品でエントリーできるという点でつながっていそうですね。

「卒制採用」は、卒制に打ち込みすぎて就活するのを忘れていた……みたいな学生さん向けに、卒業間近の2月~3月に実施したキャンペーンです。どの企業も大体採用を終えている時期ですから、かなりニッチな企画だったと思います(笑)。


「卒制採用」の告知ページ。エントリーシートの代わりに卒制作品で選考を行った。2017,18年はViViVi​Tと共催。

ただ、カヤックは経営理念として「つくる人を増やす」という考えを大切にしているので、卒制を一生懸命作った結果、就活の機会を逃してしまった学生さんになにかできないかと思い実施しました。

面白採用キャンペーンのなかでも一番の長寿企画で、2011年~2018年までやりました。「旅する会社説明会(※4)」と絡めて、各地の卒展を巡りながら学生さんに直接声を掛けたりもしましたね。
※4…オリジナルバスで日本各地をまわり、バスの中で会社説明会を行う企画


1回のバズより、継続的な口コミ。新たな採用企画に込めた「価値提供の想い」

――10年以上も続けてきた「面白採用キャンペーン」ですが、今後の展開も是非伺いたいです。

今後は、バズを最重視してきたこれまでの面白採用キャンペーンとは異なる企画にもチャレンジしたいと思っています。「エゴサーチ採用」「いちゲー採用」がとても話題になったんですが、いくつか実績を作ることができたので、面白採用を次のステップへ進めたいと思うようになりました。

というのも、長年の問題として、話題が継続していないというのがありました。話題になるのってやっぱりリリースして1週間ぐらいで、それ以降は広告を回して応募を集めることになるんですよ。同じキャンペーンを2年3年続けても採用自体はできますが、PRやブランディングの効果としてはベストとは言い難い。

ただ、マーケティングの観点で考えたときに新卒採用の難しいところは「毎年ターゲットが変わる」ということです。世代交代がとても早いので話題を継続させるのは本当に難しい。

ここで重要なのが、就活を終えた4年生が、こんなキャンペーンあるよと後輩たちに伝えてくれることです。キャンペーンに応募した人が後輩1,2人にでも紹介してくれれば、同じ応募数ぐらいは次の年も集まるわけですから。ただ、価値がないと当然口コミは生まれないので、価値提供が根底にある企画でないといけません

――「価値提供が根底にある企画」とは具体的にどういったものでしょうか?

ViViViTと共催してはじめた「ポートフォリオ奨学金」がその好例ですね。ポートフォリオの印刷費って平均で2万円もかかるんですが、ポートフォリオとしてまとめる予定の作品をViViVi​Tにデータ登録していただければ、審査をして、合格者100人には2万円を給付するというものです。


「ポートフォリオ奨学金」の告知ページ。今期は2020年12月~2021年4月まで応募受付中。

ポートフォリオの印刷には問題意識を持っていました。クリエイター採用の慣習として、「ポートフォリオを印刷して提出する」という応募方法が当たり前のように続いてきました。もう今の時代、PDFなどデータ提出でよいと思いません?未だにこの応募方法が当たり前なのはおかしいと思います。企業が印刷を求めているにもかかわらず、学生が印刷費を払うことがあるのもよくわからない。

ただ、企画の社内説得に3年かかりました(笑)。大きな予算をかける割にはバズらない可能性が高いという問題があったからです。ポートフォリオという言葉自体が一部の人にしかわからないニッチな言葉ですし、ポートフォリオの奨学金を給付しますって真面目すぎて「面白法人らしい」のかと。よくわかるんですが、それだけがカヤックのブランディングじゃないのではと強く思い、企画書を何回も出し続けました。

――実現までに長い時間がかかったんですね。「ポートフォリオ奨学金」を実施されて、学生の反応や成果はどうでしたか?

反応は上々で、初実施の前回は330人ほど応募があり、そこから100人の合格者が生まれました。

これまでの傾向として、書類選考通過から内定承諾まで進む割合はデザイナーの場合毎年5~10%と出ていたので、単純計算で合格者のうち10~20人がカヤックにエントリーしてくれれば絶対1人は採用できるなと。

有難いことに、合格者のエントリー率はとても高かったです。カヤックの事業と相性のいいポートフォリオばかりを合格にしたわけではないですが、デザイナーの新卒採用はこれで困らなくなりました。

まだやれていないですが、次は「ポートフォリオ奨学金」の合格者(あるいは応募者)向けにオンラインイベントを定期的にやりたいです。別に他社に就職してもいいので、カヤックの「つくる人を増やす」「面白く働く」という理念をもっと広めていきたいと思っています。


そもそも、“人を採るだけ”の採用がおかしい

――お話を伺っていて、これまでのバズる採用企画から少しずつ方針転換されているように感じました。

そうですね、今まさに採用への取り組み方について根本から考え直しているところです。その根幹となるのが「戦術的ピリオダイゼーション(※5)」になります。
※5…ポルト大学のビトール・フラーデ教授が提唱したサッカー理論。世界中の多くサッカー監督が導入し注目されている。

すみません、これはもう後で調べてください(笑)。「戦術的ピリオダイゼーション」の説明だけで1時間はかかるので。ざっくりいうと、「ゲームモデルというフレームワークを根底においてゲームの局面に応じたプレー原則(意思決定基準)を設ける」というサッカーの最新理論です。これを採用や組織開発に応用する取り組みを実験的に行っています。この前、サッカーメディアのインタビュー(一部有料)で詳しく答えたのでそれを読んでみてください。

「戦術的ピリオダイゼーション」のおかげで、長年考えていたことが一気に言語化されました。採用活動でやっていることって突き詰めればシンプルで、ブランディングとスクリーニングの2つしかないんだと。サッカー的にいうと、入りたいと思ってもらえるような“攻め”と、この人が必要かどうかを見極める“守り”。採用活動に関わるのであれば、人事以外のメンバーも両方の視点を持っていないといけない。

今後はより再現性を高めていって、他社でも汎用できるような採用理論にしたいと思っています

――最後に「これからの採用企画」で大切だと思うことを聞かせてください。

「企業活動自体をコンテンツにする」という考えのもと、面白採用キャンペーンを10年以上続けてきました。ここで改めて、コンテンツとはなにかということを考えたときに、その本質は価値提供であると考えています。

企業というものは、なんらかの価値を提供することで対価として利潤を得るもの。なのに、こと採用においてはなんの価値も提供できていないんじゃないか。長年採用に携わるなかで、人を採るだけの採用活動がそもそもおかしいと思いはじめたんです。

「ポートフォリオ奨学金」など、これからはより一層候補者に価値提供していきたいと思っています。そして、「つくる人を増やす」「面白く働くといったカヤックの理念を好きになってもらいたい。カヤックのことを、バズる以外の形でもしっかり伝えていきたいですね。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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