金融とテクノロジーの融合を意味するフィンテック。お金を取り巻く環境を便利にしていく分野として、昨今大きな注目を集めています。

そんなフィンテック業界において、いま最も注目を集める「ブロックチェーン(※1)」の関連企業として、躍進を遂げている株式会社Ginco。
安全性が高く使いやすい仮想通貨ウォレット「Ginco」や、モンゴルでのマイニング事業でブロックチェーン領域に新しい風を吹かせ、1.5億円の資金調達に成功、Tech in Asia Tokyo 2018 Arenaピッチバトル優勝(※2)といった高い実績を誇っています。

「Ginco」の躍進を支える重要な要素のひとつが“デザイン”。この記事では株式会社Ginco COOの房安陽平さんに、ブロックチェーンを利用したサービスでデザインが果たす役割と、Gincoのデザイナーに求める要素について伺います。

※1…ビットコインをはじめとした仮想通貨を、ユーザー同士で管理しあう分散型の台帳技術。ユーザー全体でお金の動きを記録するため、改ざんが起こりにくく信頼性が高いといわれている。お金の動きに不正がないか確認する作業をマイニングといい、マイニングを成功させるとビットコインが報酬として受け取れる。
※2…アジア最大級のテックメディア&コミュニティTech in Asiaが主催するピッチ(短時間のプレゼンテーション)バトル。アジア各国から選抜されたスタートアップだけが登壇でき、優勝すれば世界中のメディアや投資家からの注目が集まる。

房安陽平 株式会社Ginco/COO
神戸大学大学院にて音声認識と自然言語処理などコンピュータサイエンスを専攻。その後、ブロックチェーン技術開発会社でUI/UXデザイン、LINE株式会社でアライアンスやグロース施策を経験し、2017年10月にGincoを創業。現在はCOOとして、プロダクト制作全体のマネジメントや品質管理を行っている。

デザインの進化はユーザー体験の質を変える

―ブロックチェーン技術に関して強みを持つ御社が、デザインを重要視しているのはなぜでしょうか。

ブロックチェーンの技術は、便利ながら難解なものです。先進的かつ専門的な分野であるために、その分だけ一般ユーザーと大きな距離があります。デザインは、その距離を縮めることに役立つんです。

―具体的にはどういうことですか?

デザインの進化は、ユーザー体験の質を変えてくれます
例えばVRについて考えてみてください。いまでは家電量販店やゲームセンターで気軽に体験できるようになり、身近に感じる人が増えたでしょう。その背景には、直観的な操作性に優れたVR機器の「Oculus」など、UI/UXデザインに優れた製品の誕生・普及があります。
同じように、優れたUI/UXによってユーザーが自然にブロックチェーンを利用する世界を、僕らはつくろうとしています。

ブロックチェーン業界はこれまで、インターネット黎明期と同じようにギークなエンジニアの価値観を中心としてきました。特定の管理者への信用ではなく、コードの厳正さを重視する文化が主流の業界です。
ただ私たちは、デザインのように人によって感じ方の異なるものに注力して、より多くの方にとって自然に扱えるものにしていくことが、この技術の普及に繋がると考えてサービスを開発してきました。
「いかにユーザーの体験をデザインするか」を徹底的に意識してきたことが結果的に、私たちのブランドに繋がっていると感じています。

重視するのは「使いやすさ」と「安心感」そして「ワクワク感」

―モバイルウォレット「Ginco」のデザインではどのような点に注意されましたか?

使いやすさと安心感の両方を兼ね備えたUI/UXデザインにすることです。例えば、仮想通貨の紛失要因で最も多いのが、送金時の宛先ミス。それを防ぐため、“送金前のアドレス確認で1画面をまるまる使う”、“Gincoアカウント同士だとユーザ名アイコンで宛先を確認可能”といった設計を行っています。
そのおかげで「Ginco」は最も事故の少ない仮想通貨ウォレットのひとつとなりました。

―確かにとても見やすい画面設計ですね!それに色使いも素敵です。

「Ginco」ではデジタル通貨の所有感も重視しています。現実の通貨を手に入れたときのうれしい気持ちを、仮想通貨でも再現できないかと頭を絞り、一つひとつの通貨をオリジナルのデザインで表示することにしました。
通貨それぞれのイメージにマッチするよう時間をかけてデザインした結果、所有している仮想通貨を自慢したくなるような見栄えになったと自負しています。

―ほかにデザインで大切にされていたことはありますか。

装飾的な部分でいえば「Ginco」のイメージに合わないものは絶対に世に出さないということです。弊社では僕とクリエイティブディレクターの了承なしに、バナー広告ひとつたりとも公開することはできません。これはWallet以外のサービスについてもすべて一貫した企業全体の思想です。

左:クラウド型ブロックチェーン環境Ginco Nodesのβ版、右:仮想通貨マイニングサービスGinco Mining

私たちが身を置くのはフィンテック、つまり金融業界の一角です。ユーザーの大切なお金を扱うフィンテック企業にとって「使いやすい」「安心」というイメージは、選ばれる理由に直結します。
そのためブランドイメージを毀損するような、質の低いデザインが世に出ない仕組みづくりが不可欠なんです。

Gincoのデザインはアイコンひとつとってもオリジナルのものです。そうすることでブレや雑さが生じる余地を排除しています。
また弊社では、よりわかりやすいように自分たちで考案した表現を用語に使用しています。
例えばブロックチェーンの暗号をわかりやすい単語に置き換えたものを「ニーモニック」と呼ぶのですが、弊社ではそれを誰でも理解しやすいよう「バックアップキー」と言い換えました。それがいまでは、日本の仮想通貨ウォレットにおいて共通の言葉となっています。
先端領域で「当たり前」とされていることとユーザーにとっての「当たり前」のギャップを敏感に捉え、ユーザーを中心に考えることが、結果的に将来のスタンダードをつくり出すことにつながります

Gincoのデザイナーに共通するものとは?

―Gincoのデザイナーに共通する要素は何か教えてください。

プロダクトにかける情熱だと思います。弊社には現在5人のデザイナーがいて、全員が自分のつくるものに誇りを持っていて妥協しない。そして新しいものであっても、自分なりの表現で躊躇なくデザインする力を持っています。
ブロックチェーンや仮想通貨が難解なものである以上、ユーザーに伝わるデザインをつくるためには、デザイナーが大きな壁を乗り越える必要があります。それが可能ならばバックグラウンドや過去の経験は関係ないですね。

―そのような人材かどうかはどのようにして見抜けば良いのでしょうか?

動画制作・海外向けクリエイティブ制作を担ってくれているデザイナーの場合でいうと、面接時からとにかくプロダクト愛を感じました。「なんでうちに来たいの?」「うちが良い理由は?」といった質問の答えが、プロダクトとデザインへの共感で一貫していたんです。
そこが明確になっていたから実際に働いているイメージが浮かびやすかった。どんな技術でも、しっかりデザインに落とし込んでくれるだろうと信頼することができました。
ほかのデザイナーもフリーランスや副業での参加と形態はさまざまですが、プロダクトにかける気持ちは共通していましたね。

―フリーランスや副業の方もいらっしゃるんですね。そのような編成で問題なくチームを回せているのが驚きです。

短時間でも優秀なデザイナーに入ってもらったほうが良いと考えていますから。
基本的に腕の良いデザイナーは手が空いていません。だから専属の社員になってくれる人だけを求めるより、雇用形態に関わらず優秀な方に多く参加してもらえるほうが良いサービスがつくれると思うんです。
もちろん多忙な人材のチームでは、顔を合わせてのミーティングは頻繁にはできません。そのため、僕が全員と接触して情報共有を図っていました。そのときに重要なのが情報を可視化すること
例えば僕はプロダクトをデザインする際、必ずユーザーが達成すべきことを細分化したフロー図を制作し、タスクの担当者を明確に規定しています。
経営陣が考えていることを共有することでデザイナーがすべきことは明らかになり、タスクが担当者不在のまま放置されるリスクもなくなります。
そうしたコミュニケーションを続けることで基本の考え方が伝わり、マネジメントコストは段々下がっていきました。

デザイナー採用の秘訣は「良いプロダクトをつくること」

―優秀なデザイナーを獲得するためにフィンテック企業は何をすれば良いのでしょうか。

これは「鶏が先か、卵が先か」のような話かもしれませんが、経営者から現場まで一丸となって、とにかく良いプロダクトをつくろうとすることだと思います。
いくらでも仕事を選べる優秀な人材に「それでもこの企業のデザインに関わりたい」と思ってもらうためには、彼らが魅力的に感じるプロダクトやそれを生み出す文化をつくる必要があります
弊社の場合は「デザインの力でブロックチェーンという新しい技術を世の中に溶け込ませていく」というビジョンに従って文化を醸成し、プロダクトづくりに取り組んできました。
その経験からも、良いプロダクトをつくろうという文化を徹底することが良いデザイナーの採用につながると確信しています。

―ありがとうございます。では最後に、これからのGincoの目標を教えてください。

ブロックチェーンをより世の中にとって当たり前のものとしていきたいです。そのために「Ginco」を普及させるのはもちろん、ブロックチェーンの開発サポートやPoC(※3)コンサル、要望通りにカスタマイズした事業者向けウォレットの提供など、新しい事業も開始しました。
ブロックチェーンをデザインの力でわかりやすく操作に落とし込むのは、弊社が最も得意とするところです。これからもデザインの力を活用してBtoC、CtoC問わず価値を提供していきたいですね。

※3…概念実証。新しいプロダクトやプロジェクトが本当に実現可能かを効果・技術といった観点から検証することを指す。