成長に伴う人手不足に悩まされがちなベンチャー企業。「もっと人を増やしてほしい!」と言われても、人事もまた人手不足。リソースに限界があることも多いですよね。

いまや500名超の社員を抱え、2019年度は30名以上もの新卒を採用予定のフィンテック企業、株式会社マネーフォワード。採用部長を務める小川さんは、かつて採用だけでなく人事全般をひとりでおこなうヒトリ人事でした
そこから採用チームを形成し、毎年何十名もの採用を成功させる組織づくりに携わった小川さん。そして現在はさまざまな採用施策に取り組み、リファラル採用の割合はなんと20〜30%!
今回は少ないリソースを効率的に使う工夫や組織づくりのポイント、社員を巻き込む採用の実践について盛りだくさんに話してくださいました!

小川昌之/株式会社マネーフォワード 人材採用部 部長
千葉大学大学院卒業後、大手広告代理店に入社。その後は数社を渡り歩きながら人事を含むいくつかの職種を経験。2015年、代表から熱い想いを説かれたことをきっかけにマネーフォワードへ入社。たったひとりの担当者として採用活動に取り組む。現在は部長として採用チームのマネジメントや採用施策の企画をおこなっている。

限りあるリソースで“失敗を恐れる”地道な工夫の積み重ね

ーーマネーフォワードへ入社された経緯を教えてください!

マネーフォワードは元々前職のクライアントで、当時私は採用支援やキャリア教育に携わっていました。
そのつながりで、マネーフォワード側の人事担当者からカジュアル面談を打診され、軽い気持ちで足を運んだんです。すると初回から代表の辻が現れ、その場でマネーフォワードのビジョンやミッションについて熱く語ってくれて。
それまで大手企業ばかり経験してきた私は、一企業の代表がそれだけ時間や熱量をイチ候補者に注いでくれることに衝撃を受け、入社したいという気持ちがすぐに固まったんです。

ただ、人事として入社してから2ヶ月後に当時の人事担当者が退職してしまって。そこから社員としてはひとりで人事業務のすべてを担当することになりました。
人事には採用とそれ以外の領域がありますが、やはり採用は会社の命なので、まずはそちらに軸足をおいて業務を進めることに。

ーー人的リソースの制限があるなかで、まずはどのようなことに着手されたんですか?

はじめに広告代理店時代に身につけたマーケティングのフレームワークを使って現状分析をおこない、問題点を洗い出してやるべきことを可視化しました。
そしてやるべきことに優先順位をつけ、できないことはできないと認めてひとまず諦めたんです。そのなかでも優先順位が高かったのは、候補者としっかりとコミュニケーションをとって、機会損失を防ぐこと。これは採用の成功率を確実に高める業務なので、外せませんでした。

他には、“現在は転職を考えていないけれど優秀な潜在層”をどう採用するか?という課題に対してアプローチするため、優秀な人材のリストづくりを始めました。毎日開催されている勉強会の登壇者をチェックして、名前や部署、担当プロダクトなどを記録していく作業です。
そのリストがあると、会社からピンポイントでほしいと言われた人材について「それならあの人じゃないか?」とあたりをつけることができますし、直接リストにいる人を採用することは難しくても、リストにいる人と同じ会社・部署の人を転職サイトで見つけたらその人も優秀だとわかる。潜在層を探す際のヒントとして非常に役立ちました。

ーーコツコツと地道な工夫を重ねて、限られた時間をうまく使っていたんですね。

あとはよく「失敗を恐れるな」と言いますが、当時の僕は反対に「失敗を恐れる」ようにしていました。成功率のわからないチャレンジは1割程度。
もしチャレンジした施策が失敗すると、リカバリーのために多くの時間がとられてしまいますよね。当時の状況でその余裕はないと判断して、成功確率の高い施策を柱としていました。
1割のチャレンジは、柱としている施策が通用しなくなったときに、次の一手の模索をするためだけです。

採用チームの目線を合わせるMVV

ーー採用チームづくりはいつから始められたんでしょうか?

入社して半年ほどたった頃に、採用以外を管轄する人事メンバーがひとり入社して、僕が採用担当の専任になりました。その1年後に採用担当として1名、さらに半年後にもう1名が入社して、ようやく採用チームが3名の体制になりました。

ーー社内のメンバーではなく、新たに人材を採用してチームをつくっていったんですね!メンバー集めでは、どのようなことを重視されていましたか?

メンバーを集めるうえで重視していたのはビジョンへの共感です。まだ会社組織が成長途中のベンチャー企業にとって、採用でいちばん重要なのは“同じ未来を見据えられる人材を迎え入れること”だと思います。
特に採用担当者においては、「会社のビジョンにしっかりと共感することで、事業を自分ごと化できる人」が必要。そうすると各部門にどんな人材が必要で、どうやってその人材を採用するかを自ら考えてコミットしてくれるんです。

ーー採用担当であっても、“事業を自分ごと化”することが重要なんですね……!でも、やはりひとりからチームになるにあたって、苦労された点もあったのではないですか?

メンバーを採用するにあたって、候補者や社員とどのように向き合う人なのかついては、選考の中で重要視していました。
ただ実際にマネーフォワードにおいて、どんな想いで採用活動に向き合い、社員と向き合っていけば良いのかと聞かれると、僕も言語化しておらず説明するのが難しいなと感じたんです。
さらに3名とも担当する領域を分担していたため、自分の領域で迷ったときに指示を仰がずとも同じ行動がとれるようにしたいと考えました。そこで採用メンバーの行動指針として、Mission/Vision/Value(MVV)を策定したんです。

策定においてはまずお互いの経歴や人事になった理由を3人で語り合い、理解し合うところから始めました。
続いてマネーフォワードの採用チームが目指したい未来や現在地、人事として目指す姿などを発散・収束の連続でひとつの言葉にしていきました。ふせんに思いつくことを書きつくしたら、カテゴリ分けして削ぎ落します。
最後にマネーフォワード全体のMVVと照らし合わせて齟齬がないかを確認し、完成したのがこちらです。

採用チームMVV

  • Mission:ファンをつくる採用 recruit for fun, recruit by fan.
  • Vision:ヒトと組織の想いに寄り添い、ビジョン実現のためのパートナーとなる
  • Value:プロアクティブなおもてなし
    ー敬意と誠意
    ー追求と探求
    ー考動と情動
    ー信用と信頼
    ー共創と共栄

ーーチーム単位でMVVを策定するのは、素敵な取り組みですね!そこから大幅に人数が増えた現在の採用チームでも、そのMVVは浸透しているのでしょうか?

現在は10名を超える採用チームになっていて、採用チームに入社する方がいるときは、入社初日に採用チームMVVの紹介と策定への想いを説明しています。
迷ったら立ち止まって、MVVに定めているものに準じて行動すること。自分の行動がMVVに沿っていたのかを振り返ること。
浸透しているかは自信がないですが(笑)、そのような大切なことは、最初にインプットしてもらっていますね。

新卒中途の境目なく、一人ひとりに合わせた採用と評価を

ーー新卒採用はいつから開始されたんですか?

正式に公募を始めたのは2017年卒採用からです。社員数が200名近くになり、現場の受け入れ体制が整い始めたため開始しました。
それまでも新卒採用に対するニーズはあったんですが、まだ社内の教育体制が整っておらず、新卒社員のキャリアに対する責任をもてないことから人事部でやらないと判断していたんです。

ーー慎重に新卒採用開始のタイミングを見極めていたんですね。実際に始めてからはどんなことを心がけましたか?

ベンチャー企業を志望する学生とはどんな人かを考えて、大手志向の学生が多いナビ系媒体ではなく、デザイナーでは「ViViViT」、それ以外は「Wantedly」といったダイレクトリクルーティング系のサービスを選びました
エンジニア向けには、対面で多くの学生とお会いできる逆求人型のイベントに参加することが多いです。
また事業内容が学生に馴染みの薄いものであることから、対面で話す機会を増やすことを意識し、説明会ではフィンテックやマネーフォワードの現在と未来についてじっくりお話しするために、合同ではなく単体で実施することにこだわっています。
同時にマネーフォワードがどんな会社でどんな人が働いているのかを知ってもらい、マッチングを高めるために採用ブログで積極的に発信しています。
新卒に限らず、外部のメディアやTwitterなどのSNSを使ってアプローチをおこなう際は、記事のリンクを送るだけで大きく反応が変わってきますね。

ーー新卒採用を始められて、中途採用との違いを感じることはありましたか?

候補者の実務経験の違いがあるので、選考する上でその点はもちろん考慮していますが、それくらいですね。年々、新卒採用と中途採用の境目はなくなってきているように感じます。

そもそも採用時期が通年かそうでないかというのが両者の大きな違いですが、新卒も中途も通年採用という企業は増えてきていますし、インターンやアルバイトもあるので時期や学年はどんどん関係なくなってきています。
近年は企業が自社の情報を積極的に発信するようになっているため、学生はいつでも情報収集ができますし、中途と比べても企業に対する知識量は大差がありません
企業と学生がマッチングする機会が常に開かれつつあるのではないかと思います。

また、報酬面も新卒・中途問わず能力に合わせて決定するという企業が増えてきましたし、弊社もそんな企業のひとつです。

独自の施策と“自分ごと化”で現場の社員を徹底的に巻き込む

ーーマネーフォワードはリファラル採用が盛んですよね。それはどうしてなんでしょう?

採用チームが事業を“自分ごと化”しているように、事業部の社員も採用を“自分ごと化”する文化が醸成されているからだと思います。
経営陣からも定期的に「良い人材が集まってきて会社の成長がとても早い。そして早すぎるからこそ、人材へのニーズが高まって人が足りていない。だから人事に任せるのではなく、自分たちも頑張って仲間を連れてこよう」というメッセージングがされています。
そのメッセージに現場が応えてくれるのは、やはりそもそも現場も人事も事業を“自分ごと化”しているから。お互いに当事者意識をもっているから、現場と人事がうまく協業できる関係性がつくれているんだと思います。

ほかにリファラル採用活性化のための施策として、会社の意思決定やサービスについての社内広報もおこなっています。
会社の取り組みやその背景、サービスに込められた想いをしっかりと周知することで、“紹介したいと思える会社”であり続けるためです。
さらに、それ自体が目的にならない程度の金銭や賞賛・感謝といったインセンティブを用意することで、リファラル採用へのモチベーションは高まります。
結果として、毎年入社する中途社員全体の20~30%はリファラル採用です。

ーー20〜30%はかなり高い数字ですね!

そうですね。また、リファラル採用における障壁を取り除き、今後もっと活性化させるために「GOENカード」というツールをつくりました。名刺サイズのカードで、裏面のQRコードからエントリーページにアクセスできる、採用のファストパスのようなものです。

実は以前からリファラル採用の阻害要因として「相手の転職意向がわからない」「会社にどんな募集があるかわからない」「不採用になったら気まずい」といったことが誘う側・誘われる側の双方にあると考えていました。
その要素を取り除くため、GOENカードを使ってエントリーする際には、エントリーしたことをカードをくれた相手に知らせるかどうか選ぶことができます。
さらにGOENカードであれば、一度受け取ったらその後は時期によらず、転職の意向が高まった段階で弊社にコンタクトできます。機会損失も減らせる良いツールになったと思いますし、始めたばかりですがとても好評です。
もう既にGOENカード経由のエントリーもありました。

ーー斬新ながらとても合理的な施策ですね!リファラル採用以外に、取り組まれている施策はありますか?

Money Forward Career Nightというイベントを自社で開催しています。お酒を飲みながら会社の説明を聞いてもらう、カジュアルな採用イベントですね。
候補者ふたりにつき社員ひとりくらいの割合で参加してもらい、それぞれの社員が候補者に対して「なぜマネーフォワードに入ったのか」「マネーフォワードの魅力は何か」についてじっくり伝えてくれるので、会社について深く知ってもらうことができます。
社員自身も改めて会社のことを見つめ直す機会になりますし、そこで話した方が入社することで採用への当事者意識もさらに高まります
副次的な効果も大いにありますが、そもそもの費用対効果もかなり高いですね。自社で開催するのでかかるコストは飲食代と人件費だけ。直近だと一回の開催で複数名の採用につながりました。

ーー施策一つひとつの効果がとても高いんですね。やはりそれぞれ、ポイントになるのは全社的な採用の“自分ごと化”だということがわかります。

そうですね。社員のみんながそうして協力してくれる分、こちらも誠意をもって接しています。
例えばブログで情報発信を積極的におこなっているのは、社外だけでなく社内に向けてでもあって。以前「デザイナーは、『チョウ』だと思う。」というようにひとつの職種について記事を書いたのは、人事が自分たち(デザイナー)のことをどう捉えているかを伝える意図もありました。デザイナーを“ただデザインするだけの人”と考える人事だったら、採用を手伝いたいとは思わないですよね。
僕らはデザイナーをこう捉えているという社内外への意思表示であり、候補者には「マネーフォワードのデザイナーはこういう人たちなんだな、仲間になってみたい」と思ってもらえるように。
そうやって各事業部・職種の社員と信頼関係をつくっていくことが、彼らにとっては異なる領域である採用も“自分ごと化”してもらい、快く力を貸してもらうためのポイントかもしれません。

<執筆:宮田文机>
<取材・編集・撮影:シンドウサクラ>