SPEEDAFORCASINITIAL――経済情報や企業情報を起点としたさまざまなB2B SaaSプロダクトを開発・提供する株式会社ユーザベース。同社B2B SaaS事業のデザイン部門を統括しているのがCDOの平野友規さんです。

平野さんはCDO就任と同時に、各プロダクト横断型のデザイン組織を発足。デザイナー数名の状態から組織を拡大させ、現在では二十数名の規模にまで成長しました。

今回は、平野さんが1on1コーチを務めるD.TOKYOの新クラス実際のプロダクトで学ぶB2B UIデザイン」の開講を記念し、ロングインタビューを実施。<採用編>の当記事では、B2B SaaSにまつわるデザイナー採用市場や採用施策、大切にしている選考哲学等をお聞きしました。
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株式会社ユーザベース
B2B SaaS事業 執行役員 CDO
Chief Design Officer
平野 友規さんTwitter
トランスコスモス、コンセントを経て、2011年にトライアンド(現 デスケル)を設立。 2019年にユーザベースのSPEEDA事業に参画。主な仕事は、SPEEDAのデザインマネジメント、三菱重工業の社会インフラ事業のDX推進に向けたビジョン策定支援、RICOH THETAの新規事業開発時におけるUX / UIデザイン。株式会社デスケル 組織デザイン顧問。株式会社UB Ventures クリエイティブパートナー。


横断型デザイン組織立ち上げ、採用も一元化

――まずは、CDOとして管掌されている「SaaS Design Division」の立ち上げ背景について教えてください。

SaaS Design Divisionは僕の入社時にはなく、はじめはSPEEDAのデザインチームに所属していました。当時は各プロダクトごとに事業が独立していて、デザインチームも分かれていたんです。

暫くしてB2B SaaS事業として事業統合されることになり、代表取締役Co-CEOの佐久間さんから「デザイナー全員を統合した組織をつくってほしい」と頼まれました。これがSaaS Design Divisionのはじまりです。

佐久間さんに「どうしてSaaS Design Divisionをつくるんですか?」と聞きました。すると、「デザイナーの成長パスを描くため」とはっきり仰ったんです。会社としてデザインにしっかり向き合おうとする姿勢、強いメッセージをそのとき感じました。

各プロダクト事業の体制下でデザイナーが分散している状態だと、どうしてもフェアネス公正さの観点で評価が難しかったんです。評価が曖昧という不満も実際にあがっていました。

シニアがミドルを、ミドルがジュニアを、上が下をしっかり引っ張る体制をつくることで、デザイナーの成長パスを描いていきたい。会社全体の成長にとってもこれは重要で、CDOとしての最初の大きなミッションでした。

――デザイナー採用も一元化して平野さんが見るようになったんですか?

はい、統合前は各プロダクト事業ごとに採用を進めていましたが、SaaS Design Divisionとして一元化しました。人事のサポートはありますが、全社として採用は現場主導で進める組織文化なんです。

SPEEDA専属の頃は、経験豊富なUIデザイナー、BXデザイナーを採用でき、驚くほど順調でした。インターン生の採用も半年ぐらい僕が全部やっていました。一方、FORCAS、INITIALは当時めちゃくちゃ苦戦していて。なんらかのテコ入れが必要な状態でした。

CDOとして僕が陣頭指揮をとるようになってからは、まず興味喚起の基本、ストーリーテリングを磨きました

各プロダクトの魅力を伝え、ユーザベースに入るとどんなデザイナーになれるのか、未来を描く。組織が二十数名の規模になってきたいまでも、カジュアル面談には僕が出て率先して語るようにしています。


B2B SaaSを取り巻く「熾烈な採用市場」

――採用活動ではViViVi​Tも使っていただき、若手のUIデザイナーを1名採用されました。今回どういった採用背景や狙いがあったんでしょうか?

まず前提の話をすると、そもそも市場にですね、B2B SaaSに興味を持っているデザイナーがあまりいません。デザイナーの日常生活や業務でB2B SaaSに触れることがほぼないからです。ユーザベースが提供している経済情報プラットフォーム「SPEEDA」であれば尚更です。

そうすると、とにかく候補者が少なくなる。カジュアル面談に来てくれただけで、本当にありがとう! みたいなテンションです(笑)。

一方、シニアになればなるほど、業務システムの管理画面、B2Bプロダクトを作ってきた人が意外と多いんですよ。そういう人はもう取り合いになります。実際に、有名なB2B SaaSの企業たちから複数オファーをもらっている人もいました。

B2B系のデザイナーが転職しようかなと言おうものなら、すぐに噂が立ち各社から一斉にメッセージがくるような、めちゃくちゃ狭い業界なんです。そんな採用競合がひしめき合う市場で、シニアから増やすのはまず無理だなと。

シニアは中長期で見ていく、ジュニア・ミドルは短期で見ていくと、戦略的に分けました。ViViVi​Tはポートフォリオを見てスカウトが打てるので、短期軸の期待値で利用させていただきました。

――最近積極的にSaaS Design Divisionを発信されているのには、そうした背景があったんですね。

そうですね、本当に知られていないので。NewsPicksは知っているけどSPEEDAは知りませんという、デザイナーの認知度の低さが最大の課題です。

SaaS Design Divisionの認知度を底上げするために、「DESIGN BASE」という名で組織をブランド化させました。週1回のnote更新やオリジナルグッズの制作、「Uzabase DESIGN WAVE」と題しさまざまなイベントを行ったりしています。

SaaS Design Divisionの組織ブランド「DESIGN BASE」の構想図。

この時代、組織ブランドを確立しないと太刀打ちできないんですよ。B2B系のデザイナーは、皆さんいつも転職先候補が同じで、名立たるB2B SaaSとよくバッティングしています。そうなると、特に最終オファーの段階で他社を選ばれて、内定辞退になることもざらにあります。

ただ最近、人材エージェントさんがユーザベースを紹介していただく機会が増えてきたので、第1関門はようやくクリアできたと感じています。

――本当に地道に応募を増やしているんですね。関連してもう一つ、御社の事業規模でUXデザイナーのポジションがないのも特徴的だと思いました。

プロダクトの成長フェーズによると思いますが、いまは「UXデザインはみんなでやる」と決めているからです。UXリサーチャー含め、あえて設けていません。

明確にポジションを設けると、「その人だけがやる仕事」という勘違いが起きるケースも多々あります。また、B2B SaaSは事業ドメインを相当深く理解しないと、ユーザー体験なんてとてもじゃないけど細かな粒度で見れないです。なので、戦力化までかなり時間がかかります。

それであれば、UXデザイナーは設けず、一番顧客に近いカスタマーサクセスやセールスの方々と連携するのが、いまはベストだと思っています。ニーズ掘り起こしやインサイト調査等を連携して進め、その過程で、エンジニアも含めたみんながUXを考え実行します。

ユーザベースの各プロダクトは、いま第二成長期のようなフェーズにあります。この局面では、解約率をとにかく抑えるぞみたいな、ビジネスサイドのKPIを泥臭く改善していくことが最優先です。

UXデザイナーとして、上流のリサーチや体験設計だけをやりたい人は現状ミスマッチになりますね。


プロセスの時代。改めて問いたい、デザイナーとしての“強度”

――選考ではどういったことを意識されていますか?

ユーザベース全社で一番大事にしている選考基準が、バリュー、ミッション、スキルの順に候補者を見ることです。

仮にB2B SaaSの管理画面を作ってきた経験豊富なデザイナーであっても、バリューフィットが難しい、ミッションへの共感度が低いという判断になれば、次の選考には進みません。これは揺るがない軸ですね。

特に若いジュニアはバリューフィットが大事です。経験・スキルが乏しくても、究極一言でいえば「誠実な人」を採用したいと思っています。

自分のやったこと、感じたこと、伝えたいことを、拙くてもいいからオープンに話せるかどうか。オープンマインドともいえますが、そういう人はバリューフィットすると思いますし、成長も早いです。

――ViViVi​Tでは、平野さん自らポートフォリオを見てスクリーニングされたそうですね。

はい、かなり見ました(笑)。ViViVi​Tを利用して改めて気付いたというか、「ポートフォリオを見ることで、その人の個性や本質的な力が垣間見れると思いました。

わかりやすい情報設計はユーザーへの心遣いの表れですし、どこからどこまで自分が作ったかをはっきり書いていれば誠実さの表れです。細部まで美しさにこだわっていれば、デザイナーとしてやりきる力のひとつの証明になります。

制作物によるかもしれませんが、ポートフォリオと実際の仕事の風景はある程度リンクしていると思っています。

――UIデザイン・UXデザインの場合、洗練されたポートフォリオよりも、FigmaやXDで生のプロセスを見たいという人もいます。平野さんはどう思われますか?

例えば、新規事業を0→1でグロースさせるフェーズであれば、グラフィック的な意匠よりも、思考も含めたプロセスを重視して見たほうがいいと思います。要するに、プロセスドリブンといえるでしょう。なので、その意見もとてもわかります。

ただ、僕はやっぱりポートフォリオを作ってほしいですね。FigmaやXDだけだと、本当に最後の最後まで体験を突き詰められる人なのか、判断がとても難しいからです。

僕が美大出身だからかもしれませんが、これは一種の信条ともいえます。デザイナーである以上、「美しさにどれだけこだわりを持っているのか」はしっかり見たいですね。

――「神は細部に宿る」といいますが、お話を聞いていて、モノづくりにおける美意識をとても大切にされているように感じました。

仰る通り、美意識はめちゃくちゃ大切にしています。これはちょっと意見が分かれるかもしれませんが、選考でもとても見ています。

例えば、海辺に沈む夕日を見て綺麗だなと思う、その感動ってみんな共通していますよね。そういう共通の感動を生み出す要素のひとつとして、やっぱり美があるんです。僕が美意識を大切にするのは、美しさの力を信じているからだといえます。

原体験がいくつかあるんですが、例えばSlack。初めて触ったときは衝撃でした。ビジネスツールなのに、こんなにもカジュアルで使いやすいのかと感動しました。

当時ビジネスチャットは他にもありましたし、機能としても、Slackのチャンネルやコマンドに近しい機能は、すでに他サービスにもありました。しかしそれでもなお、Slackに心を掴まれました。Slackは、ビジネスのコミュニュケーションに「カジュアルな楽しさ」を生み出したんだと感じています。

あと、20年以上前の古い話ですが、AppleのAqua(※1)も革命的でした。いまのmacOSはフラットデザイン(※2)に移行したので、Aquaはもう廃止されていますが、当時としては画期的なインターフェースでした。その頃僕は大学生でしたが、本当に美しくて、とても感動したのをいまでも鮮明に覚えています。
※1…AppleがmacOS X 10.0(2000年)で採用したGUI。
※2…立体感や質感等の要素をなくしたシンプルで平面的なデザイン。

SlackやAquaに触れたときの感動、これらは、美意識とか用の美※3とか、そこを突き詰めないとつくれない体験なんじゃないかって思ったんです。
※3…民藝運動の創始者・柳宗悦が提唱した概念。実用性を追求した結果宿る美しさ、機能美。

結論、どうせなら僕はそういうモノをつくりたい。使いやすいだけでなく、普遍的な美しさで心を掴むUIを作って届けたい。つまりは、感動体験をつくることに挑戦したいです。

だからこそ、「ポートフォリオを見る」ことは、デザイナーとしての美意識とやりきる力を見抜くことにほかなりません。もちろん、いろんな意見があると思います。ただ僕は、ポートフォリオをこだわって作ってほしいですし、こだわれる人は強いと思います。


CDOの後任探し、描き続ける未来予想図

――デザイン組織の確立がひと段落ついたフェーズだと思いますが、採用では今後どういったことを計画されていますか?

デザイナーは積極採用中で引き続き増員予定です。シニア層は特に強化していきたいですね。

あと別の観点でいうと、僕の後任となるCDO候補はずっと探し続けています。これは僕が辞めるという話ではなく、CDOに就いた当初から後任探しはミッションのひとつです。

僕がいまCDOという打席に立てているのは、その打席に導いてくれた人がいたからで、立たせてもらっているに過ぎません。一定のところまで組織を成長させられたら、今度は僕が、デザイナーのキャリアパスとしてCDOの打席に誰かを導きたいです。

あと、僕が新しいことを描き続けているうちは、まだ大丈夫だと思いますが、組織の限界はトップが描くビジョンの限界なので。トップがアップデートしなかったり、守りの姿勢になったりすることで、組織の成長を妨げてしまうことは往々にしてありますよね。

組織の成長を中長期の目線で考えると、いつでも後任にバトンタッチできる状態をつくっておくことは大事です。

――仮にCDOをバトンタッチしたとき、平野さんは次になにをされたいですか?

次はプロダクトづくりに専念したいですね。

組織体制としてクックパッドさんをかなり参考にしていまして、プロダクトは宇野さん(Twitter)が見て、組織づくりは倉光さん(Twitter)が見るという、ダブルラインの指揮系統をとられています。これが結構理想で、僕よりもマネジメントが上手い人に後任として組織づくりを担ってほしいです。

あと、UB Venturesという、グループ会社にベンチャーキャピタルがあるんですが、そこで投資先のプロダクト支援や組織支援もやってみたいです。スタートアップの方々にデザインの力を届けて、たくさんインストールしてもらいたいと思っています。

ということで、ユーザベースで挑戦したいことはまだまだあります。組織の未来を描くのと同時に、自分自身の未来も描いています

組織の限界はトップの限界ですから。僕の成長が止まると、組織の成長も止まってしまいます。ユーザベースにいるうちは、新しい挑戦をどんどん続けていきたいですね!