1990年に創業、2006年に持株会社体制へと移行し、2019年6月現在で30社以上のグループ会社をもつ株式会社セプテーニ・ホールディングス。
アートやデザインに造詣の深い代表の佐藤光紀さんが発案し、2017年10月にコーポレートデザイン室を設立。最初のプロジェクトとしてコーポレートロゴのリニューアルをおこないました。
デザイン経営の浸透に向けて、大きく動き始めたセプテーニグループ
今回はコーポレートデザイン室設立の背景や、デザイン経営への考え方について、取り組みの中心となるおふたりに伺いました!

佐藤光紀/(株)セプテーニ・ホールディングス 代表取締役
グループ社長執行役員

1997年に株式会社サブ・アンド・リミナル(現セプテーニ・ホールディングス)へ新卒入社。入社3年目に新規事業責任者としてインターネット広告事業を立ち上げ、同社を国内トップクラスのインターネット広告会社に育てる。2009年に代表取締役に就任。
加来幸樹/(株)サインコサイン 代表取締役CEO
(株)セプテーニ・ホールディングス コーポレートデザイン室室長

2006年に株式会社セプテーニへ新卒入社し、クリエイティブディレクターとして活躍。2017年10月、コーポレートデザイン室の設立に伴い室長に就任。2018年4月に社内ベンチャー制度を利用し、株式会社サインコサインを設立。

アウトプットありきじゃない。概念レベルでデザインをリード

ーーコーポレートデザイン室が設立された背景を教えてください。

佐藤さん

コーポレートデザイン室を設立したのは2017年の10月ですが、その半年ほど前から、経営陣には経営におけるデザインの重要性について話をしていました。
まず前提として、セプテーニグループはインターネットサービス事業が中心なので、金融資産のみならず、サービスをかたちづくる人的資産が最も重要な資産になります。
ではその人的資産の価値を最も高めるため、すなわち人がパフォーマンスをあげるためには、どういった取り組みが必要なんだろう?という問いがそもそもありました。

そこで、当社ではこれまでどのような能力をもった人が中心になってきたかを考えると、どちらかというと論理的に物事を捉える、データやテクノロジーを好むような人が割合としては多かったんです。
ただ一方で、データやテクノロジーによる最適化の傾向があまりに強いと、最適化による壁のようなものが生まれやすくなると思っていました。
例えばPDCAを早く回していくことはつまり、目に見える数値に落とし込んで、早く行動して早く改善するということですよね。もちろんそれもひとつの有効な方法ですが、それによってできにくくなる動作や開発されにくくなる能力もあると思うんです。
その能力というのが、アートやデザインです。できあがった構造をより良くしていくというよりは、カオスから構造そのものを生み出すような能力
数値化も言語化もされていないところから、パッと見て、より直感的に面白いか面白くないかを判断して物事のかたちをつくっていく能力です。

グルメサイトで例えると、「評価が4.2だから行こう」と考えるのは数字で判断しているということですよね。しかし、そもそもそこに4.2をつけている人がいる。点数をつける前の段階で、最初にお店や料理について「良い」と感じた人です。
そのように自分の感性や直感で判断していく部分を失いたくないんです。

現在の会社にデータやテクノロジーの能力をもつ人が多いのであれば、そこから一旦離れて、アートやデザインの能力を開発していくと、アートとサイエンスの混ざったハイブリッドな人と組織がつくれていくのではないかと。そしてもっと感性を磨いていくことで、より論理にも生きてくる。
そこで生み出された事業やサービスは、いまよりももっと価値のあるものになるのではないかと考え、コーポレートデザイン室の設立を決定しました。

加来さん

「何でセプテーニグループに発注するんだっけ」「何でセプテーニグループで働いているんだっけ」という問いに対し、より感覚的な答えをもてるようになるためにも、デザインが大事だということは改めて思います。
例えば、さっきのグルメサイトの話でいうと、評価の点数に関係なく「マスターの人柄が好きだな」「料理をつくっているスタンスに共感するな」のように、なぜ好きかを具体的に自分の中で整理できていないけれども、自分自身の感性に基づいた答えが出せることも必要ではないでしょうか。
このように、物事に対して感覚的な価値を見出してもらうには、デザインが重要になってくるのだと思います。
また、デザインという言葉を使うと、ビジュアルとしてアウトプットされたものがデザインだと捉えてしまいがちですよね。
でもデザインの語源は「計画をしてそれを記号にする・表現する」という意味からきているのです。だから実は、「こういうものをつくる」よりは「こういう意図をもってこうしている」という部分がデザインの中で最も重要なところなんじゃないかなと思います。

そして、「会社がそこにどんな意図をもっているか」を表しているのが企業理念です。それを示していく意味でも、デザインを意識して構築するのは会社の価値になると思います。

佐藤さん

そうですね。そのような考えが前提にあり、制作物をつくるのではなく概念としてのデザインをリードしていく部署として、コーポレートデザイン室をつくりました。
最初のプロジェクトはロゴのリニューアルでしたが、実際には制作物ありきの部署ではないんです。もっと定性的な意味、概念レベルで企業ブランドをデザイン重視の方向へと高めていくための第一歩として、ロゴのリニューアルから始めました。
今後「セプテーニグループってどんな会社?」という質問に対し「ネット広告事業ではソーシャル領域に強いですね」「AI人事で有名ですね」と言われる中に、「デザイン思考に長けた人がいますね」「デザインのアウトプットがイケてますね」という答えが入ってくると良いと思っています。

こういう企業ブランドにおいて、再現性をもって実績を積み重ねていくと、信用・信頼が生まれると思うんですよね。その信頼をつくっていくことができたら、より多様でより優秀な人材も集まるだろうと。
さらに各社ではなくて、持ち株会社の中にコーポレートデザイン室をつくれば、そこを出発点にシャワー効果で各社にも効率よく良い影響が与えられるのではないかと考えています。

ーーではなぜ、加来さんが室長に選出されたのでしょうか。

佐藤さん

加来くんがデザイン思考をもった人だということは理由のひとつとしてありました。
制作者としてのアウトプットのデザインについてはもちろんですが、さきほどのような抽象的なことを話したときに、彼は聞いて・見て・感じ取って「それはこういうことですよね」「確かに良いですね」と概念レベルで正しく解釈してくれる。だから話を進めやすいです。
抽象度の高い目的に対して、それを理解できるということは、抽象的なものを具体的なものに落とし込む力があるってこと
それは本当にアートの解釈と一緒で、そこからどんなものを感じ取るかという感性だと思うんです。加来くんはその感性が鋭いと感じています。

加来さん

僕が室長を任されたのは、ちょうどサインコサインを立ち上げるタイミングだったこともあると思います(笑)。
僕はこれまで本業や外部のタイムチケットでの活動(※)を通して、デザイン思考的なアプローチをもって、ワークショップをしながらアウトプットしましょうという機会を増やしていました。
その中で、僕が本当にデザインとしてやるべきだと考えるのは、最終的なアウトプットに向けてどう道筋を立てるのかというところ。そしてそのプロセスを、できあがったデザインを使う本人が一緒につくることが重要だということに気づきました。
そして、これを事業としてやりたいと提案していました。

※2014年頃から「タイムチケット」というスキルシェアサービスを通じて「30分の対面セッションによってネーミングやコピーを考える」というプライベートでの活動をおこなっている

 

会社に向き合い、ブレない方向性を決めた

ーーコーポレートデザイン室では、具体的にどのような活動をされているんですか?

加来さん

基本的には、半年〜1年単位の活動方針のようなものを決めて、それを進めていきます。
いちばんはじめのロゴリニューアルプロジェクトでは、いつまでにロゴを変えるかの目標を決めて、そのためにふさわしい進め方やパートナー企業について検討していきました。

佐藤さん

最初にわかりやすいアウトプットを出したほうが、コーポレートデザイン室について「どうしてこの部署があるんだっけ?」「どんな役割なんだっけ?」ということが理解しやすくなるので、まずはそこからだと思っていました。
ロゴの制作については、ただできあがったものを発表しただけでなく、社内・社外向けに制作のプロセスやストーリーを公開しています。
ロゴデザインがどんな意味や物語をもっているのか、どんな人たちが関わっているのか、ということを伝えられれば、ブランドの体験に深みが出てくると思うので。

ロゴデザインコンセプトについて
Septeni Group Inside Story 〜 新コーポレート・ロゴができるまで 〜

加来さん

他の企業においてもデザイン経営やコーポレートブランディングを進めていく際に、ファーストステップとしてロゴをつくり直したり、ロゴと向き合ったりするのはおすすめです。
それはもちろん佐藤さんがいうように、ロゴをただつくり変えれば良いという話ではありません。
当社の場合はロゴをつくっていく過程の中で、これまでのセプテーニグループの歩みや、これからどこに歩もうとしているかについて、何度もインタビューやワークショップを通じて向き合いました
これまでの文化で醸成された良い面や課題も共有したうえで、この先の方向性や現在の企業理念の解釈の仕方について、企業のトップである佐藤さんから言葉で示してもらえたのはすごく大きな意味があったと思います。
僕自身が、このプロジェクトを通して今後の方向性を理解したことで、コーポレートデザイン室をどうしていけば良いかも定まりました。

いまはインターナルブランディングを広報部門や総務部門と連携して進めたり、横串で企業理念を浸透させていくプロジェクトをおこなったりしているんですが、別々の部門にいる人たちと密接に関わりながら取り組めるようになったのは、そのおかげだと思います。

佐藤さん

アウトプットとしてのロゴデザインも実際かなり良いものができましたし、社外の方にも話題にしていただけました。
社員も名刺交換が楽しくなったのではと思います。
名刺交換でロゴが話題になったときに、それぞれがリニューアルのストーリーを知っていれば「こういうふうにしてロゴをつくったんですよ」と話すきっかけにもなるんです。
そうやって名刺交換の瞬間が以前よりも気持ち良く感じられているとしたら、ブランドの体験価値があがったなと思いますね。

加来さん

コーポレートデザイン室としてはまだまだ考えることはありつつも、その立ち上がりとしてブレずにもつべきものを、言葉でもビジュアルでも定義できたのは大きいですね。
あとはもうやっていくだけみたいな段階です。このロゴをつくったプロセスを踏まえて、ブランディングをインターナルに実践していく。
手前味噌ですけど、世の中的にもリードした取り組みはできているのではないかなと思いますね(笑)。

デザイン経営は、トップの意思決定が重要

ーーではロゴ変更などのプロジェクトに入る前段階、まずはデザイン経営を推進する組織を構築したいという場合、どのように始めれば良いのでしょうか?

佐藤さん

これに関しては、ボトムアップではなくトップダウンで推進しないと難しいのではないでしょうか。「デザインなんて興味はありません」という社長に、それをプレゼンするのはとてもハードルが高いことだと思います。

加来さん

僕も実際に、トップ以外のポジションの方からそういった依頼をいただくことがあります。
でもトップの理解を得られていないまま実行すると、取り組み自体が頓挫することが多い気がしますね……

佐藤さん

デザイン経営に取り組めば、トップから各事業会社へとデザインの力が伝播し、それによりバリューアップされる。
それが各事業やプロダクトを通じて顧客に伝わり、その価値を顧客が認めてくれたらそれぞれの利益につながる。
最終的には顧客満足、提供価値の向上によってグループ全体が伸びていく。つまり経営者があまねく望んでいる結果になるはずなんです。
そうなるためにも、経営トップ自身がデザイン経営に対する理解をもち、積極的に推進していくことが大切だと思います
今回ロゴをリニューアルしたときも、それを聞いた多くの経営者からロゴをつくってくれたパートナーさんに問い合わせがあったり、僕自身も知り合いからいろいろと背景や経緯を聞かれたりしました。

当社の場合は僕が意思をもってデザイン経営の原案を提供し、実行面ではその抽象的なものを具体化できる加来くんのような人が推進を担っていく、というかたちで進めています。

加来さん

そうですね。今回のロゴリニューアルで実際に動いたのは僕で、パートナーさんと一緒にプロジェクトを進めていました。するとプロジェクトの終了後に、パートナーさんから「非常にやりやすかったです」と言ってもらえたんです。
彼らは日頃からブランディング領域でクリエイティブをつくっている方々なんですが、今回は発案者である佐藤さんとパートナーさんの間に僕が立って、責任にコミットしながらディレクションしたことがやりやすかったとのことでした。

佐藤さん

こういう場合一般論として、社長がパートナーさんと直接関わりすぎて、無茶振りすることってありますよね(笑)。
デザイン会社の人は社長との対話や理解の度合いがままならず、解釈に困ってしまうというような事態が起こってしまうこともあるのではないでしょうか。
だからクリエイティブもわかる加来くんが間に入りディレクターとして携わって、抽象的なものを具体的に落とし込み、さらに当事者としてディレクションをすることで、パートナーさんも仕事がしやすかったんじゃないかと思います。

こういう意味でも、経営者の直下にコーポレートデザイン室があることは重要だと思います。

対話を通じてインスピレーションを生むコーポレートブランディング

佐藤さん

コーポレートデザインとは、文字通りコーポレートをデザインするということ。コーポレーションやカンパニーともいいますが、ではそれが何かというと、人と組織、つまり仲間の集まりです。
コーポレートデザインというのは、デザイナーやディレクターがイケてる制作物をつくって「すごいでしょ」というものではなくて、企業を構成している人材との対話を通じて、体験をアウトプットしていくことだと思っています。
例えば音楽家が美術館の絵からインスピレーションを得て、新しい曲をつくる。ひとつの感性から熱量が生まれて、新しいアウトプットが創造される感じです。
これを企業を構成している人に置き換えてみると、デザインという文脈の中には、人と人が対話して熱量を生み出して、新しいインスピレーションや行動を増やしていくことが含まれている
これができたら、デザイン経営やコーポレートデザインのひとつの成果だと思っています。

加来さん

だからいまは、「コーポレートデザイン室って何だっけ?」ということを社員に伝える説明会をおこなったり、横軸のインターナルなプロジェクトにおいても対話をたくさんしています。

佐藤さん

答えをもっていてそれを与えにいくのではなく、対話を通じて何かを一緒に生み出していく。
そういう対話を通じて成果物を出す行為そのものが、設計という意味でデザインなんだと思います。

加来さん

そうですよね。コーポレートブランディングを浸透させたいと思ったとき、「どうインプットしてそれを受け取ってもらうか?」を考えがちですが、セプテーニグループでは対話を重要視しています
例えば「セプテーニグループのデザインの考え方とは」について一方的に伝えようとしても、それは残念ながらみんながどうしても知りたいと思える情報ではない
クリティカルに自分に影響するような情報であれば、一方的に発信するだけでも良いと思うんですけどね。
だから対話をしながら、なるべく自らアウトプットしてもらう機会をたくさんつくらないと、なかなか浸透していきません。

そのため僕は社外のゲストを招いた社内講演会を定期的に開催する中でも、なるべくワークショップをセットにして、なるべく自分自身の言葉で発言してもらう場面を設けています。
今後もコーポレートデザイン室の活動として、対話とアウトプットの機会を増やすことはまさにやっていくべきことですね。

希少価値の高いチームづくりで、企業の人格を強くする

ーーコーポレートデザイン室には、最終的にはどんなことが期待されているのでしょうか?

佐藤さん

デザイン経営を推進するというのは、デザイン思考をもった人を増やすということでもあると考えています。
だからいまの活動の先にあるのは、デザイン思考をもった人材の割合を増やしていくこと。
それは単純にデザイナーを増やすということだけではなく、そういう思考をもったさまざまな職種のメンバーを増やすということ
いろんな部署や各グループ企業にデザイン思考をもった人の割合が増えていくと、生み出される結果がより魅力的なものになっていくだろうと思うんです。
さっきも言ったように、テクノロジー思考とデザイン思考をもった人たちが高度なレベルで混ざり合って、希少価値の高いハイブリッドなチームになっていく。
そうしてなかなか生み出せない価値をつくっていけると、面白いなと思いますね。

加来さん

デザイン思考をもった人が増えた結果、各社単体でもそうですが、セプテーニグループ全体としての人格がもっと強くなっていくんだろうなと思うんです。
デザインをする過程の中でもっと「アイデンティティってなんだっけ」「”らしさ”ってなんだっけ」ということがもっと対話される機会が増えていく。
これからはひとつの会社に依存しなくても働ける人が多くなる中で、あえてセプテーニグループで働くことに意味を感じたり、共感するから働くって理由があったりしないと選んではもらえない
そういう時代が進む中で競争力を高める意味でも、デザイン思考をもつ人が増えること、つまりデザイン経営がおこなわれていることは、必要なことだと思います。

<取材・執筆・撮影:シンドウサクラ>