採用サイトをつくるとき、面接をするとき、採用イベントを開催するとき。採用活動のありとあらゆる場面で、「現場で働くメンバーとの連携」が重要になります。特に専門性が高いデザイナー・クリエイター採用においては必須といっても過言ではありません。

2020年12月23日、デザイン組織のナレッジ共有会「#デザナレちょい見せ」(主催:株式会社ビビビット)は「200人超え組織のクリエイター採用連携術」をオンラインで開催。

株式会社ディー・エヌ・エー、株式会社アカツキ、面白法人カヤックの採用担当者をお招きし、クリエイター採用における社内連携ナレッジをお話いただきました。本イベントの内容を一部抜粋してご紹介します。

【ゲストスピーカー(敬称略)】

  • 和泉 純一|株式会社ディー・エヌ・エー 元・新卒デザイナー採用担当
  • 柴田 陽一株式会社アカツキ ゲーム事業部 デザイン統括 ゼネラルマネージャー
    森 信介|株式会社アカツキ イラストレーター、2Dアーティスト
  • みよし こういち|面白法人カヤック 人事部・企画部


デザイナーがデザイナー採用に6年取り組んで得たGood/Badノウハウ10選

株式会社ディー・エヌ・エー
元・デザイナー新卒採用担当
和泉 純一
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デザイン事務所で10年、ITベンチャーで3年、大学講師をしながら、さまざまな分野でのデザインを経験し、2011年にDeNAへ中途入社。Mobageのリニューアル、新規サービス立ち上げ、ソーシャルゲームのリニューアルなどを経験し、兼務期間を含め6年ほどデザイナーの新卒採用を担当。現在はグループ全社におけるワークプレイス(はたらく仕組みと環境)のデザインを担当。

市場での会社の認知をあげるには?
採用ターゲットに会社を知ってもらう為にしたこと

【1】Badノウハウ:学生が求めていることやレベル感を把握しておらず、期待に応えられていなかった

受け身の気持ちで接してしまいました。「どんな仕事をしているんですか?」といった質問に魅力的な回答ができず、学生の期待に応えられていませんでした。振り返りと反省を基に一般的な会社説明会を止めて、現場のデザイナーと触れ合うためのイラスト・ポートフォリオ講座や、採用ターゲット校との産学共同研究を実施するようにしました。

【2】Goodノウハウ:「ViViViT」を使い倒した

「ViViViT」で人気のある会社を調べ、どうしたら興味を持ってもらえるかを把握するため徹底的に使い倒しました。詳細は過去のインタビュー記事をご覧ください。

事業部をどうやって巻き込むか?
デザイナーに採用業務を自分事化してもらう為にしたこと

【3】Badノウハウ:主務を減らすことなく、採用業務をアドオン(追加)で依頼

イベント等の採用業務は土日開催が多く、主務である事業部のプロジェクトが優先されがちでした。また、採用へのコミットが評価につながりにくいという不満もありました。改善策として事業部のトップから採用業務の重要性を啓蒙してもらったり、評価体制の見直しも進めています。

【4】Goodノウハウ:上長推薦ではなく、協力してくれる仲間を自分でつくる

学生とのランチ面談といったライトな施策から現場のデザイナーを巻き込むことで、採用業務に対する適性を見ることができました。また、採用の面白さ・楽しさを伝えるきっかけにもなり良かったです。

デザイナー職ならではの選考方法とは?
現場のデザイナーに選考してもらう際にしたこと

【5】Badノウハウ:ポテンシャルが加味されず、現状のスキルセットで合否判定が行われていた

学生が提出したポートフォリオのデータサイズが不必要に大きすぎたり、ファイル形式が適切ではなかったりすると評価が低くなる傾向がありました。提出データの問題は教えればどうにでもなるため、提出時に直接アドバイスをするといった地道な取り組みを行い解決していきました。

【6】Goodノウハウ:物事の本質を捉え、適切にアウトプットする手段を持っているか?を見極めてもらう

誰でも解答できる実技テストを導入し、絵の上手さではなく、解決すべき課題や訴求ポイントなどの設計力を問いました。このテストで、アーティストではなくデザイナーとしての素養を推し量ることができました。

どうやって優秀な学生の目を向けさせるか?
会社や業界に興味ない学生にアプローチする為にしたこと

【7】Badノウハウ:イラストコンテストを開催したが、本来採用したいデザイナー志望の学生を獲得できなかった

コンテスト参加者からの応募数は多かったものの、アーティスト志向の強いイラストレーターが多く集まってしまいました。そもそもなにを採用の目的とし、どういった人材をどう集めていくのか。本質的な議論が不十分だったと感じています。

【8】Goodノウハウ:自社の損得関係なく、学生クリエイターを支援する施策を実施

自社オフィスで学生の作品展を開催しました。プロモーションは特段行いませんでしたが、750人以上の来場者があり、そのほとんどが採用ターゲット校として据えていた美大・芸大の学生でした。また、現場のデザイナーによるライブペインティングを学校で開催しとても好評でした。

デザイナー職の採用要件とは?
変化に対応できる人材戦略とする為にしたこと

【9】Badノウハウ:そもそも採用要件が言語化されていない

選考官の専門領域に閉じた視点や、属人的な思想や価値観で選考されていました。しかし、正しくは現時点の能力でなく、数年先を見越して「クリエイティビティを発揮してくれる人材」かどうか可能性を見極めることが重要です。見るべきポイントとして、基礎画力・基礎造形力の評価比重を上げ、評価基準を言語化することで改善しました。

【10】Goodノウハウ:現在想定している配属先(事業)がなくなっても、困らない採用になっている

そもそも採用は、事業や会社を大きくするための手段です。事業や会社の数年先を見越した採用計画を作る必要があり、そのために常にアップデートしなければなりません。採用に関わる現場のデザイナーや事業部を束ねるマネージャーと、定期的な1on1などで「会社と社会をどうしていきたいのか?」といった話をするようにしました。

事業部の御用聞きとして採用を行うのではなく、「一人ひとりが自分自身で考えること」が重要だと思っています。

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HRTの組織カルチャーで連携促進!アカツキ流の事業部サイト制作

株式会社アカツキ
ゲーム事業部 デザイン統括 ゼネラルマネージャー
柴田 陽一
ゲーム事業部デザイン統括を担当。アカツキでは、八月のシンデレラナインなど、様々なプロジェクトでアートチームの立ち上げを担当。現在は、ゲーム事業部のデザイン統括として人材育成や課題解決などマネジメント業務を行っている。
株式会社アカツキ
イラストレーター/2Dアーティスト
森 信介
ゲーム事業部アートディレクターを担当。アカツキでは、八月のシンデレラナインのアートリーダーを経て、現在は新規の自社IPプロジェクトの立ち上げに参加。他、アカツキゲーム事業部特設サイトのアートディレクションや、キービジュアルの制作などを担当。

アカツキでは、組織文化の醸成に力を入れています。ビジョンやミッションについて社員同士でディスカッションをしたり、全社のオフサイトMTGでも組織文化について積極的に話し合っています。

そのなかで「HRT(※1)」という言葉をよく耳にします。HRTとは、「Humility(謙虚)」「Respect(尊敬)」「Trust(信頼)」の各頭文字をとった言葉で、アカツキの行動指針になります。
※1…HRTが広まるきっかけになった書籍『Team Geek ―Googleのギークたちはいかにしてチームを作るのか』。

また、デザインチーム内では別途デザイナーとして大切にしたい想いを定期的に共有しており、職種問わず組織文化を育てることに力を入れています。

「Akatsuki Games」サイト制作での社内連携

アカツキはゲーム会社である、ということを対外的によりアピールするため、「Akatsuki Games」(ゲーム事業部)のサイトを新たに立ち上げました。こちらを、全社的な組織文化や社内連携によって上手くいったプロジェクト事例として紹介します。

プロジェクト初期のコンセプトデザインを決める会議では、広報や事業部長、代表取締役まで、様々な役職の人たちに参加してもらいました。ここでは役職間の忖度はありません。フラットに意見を言える風土を育てていたため、最上流を巻き込んでもスムーズに進めることができました。「お互いの考えを尊敬する」というHRTに基づいた組織文化のおかげであると感じています。

次のステップ、キービジュアル・ロゴ制作においては、まずはデザイナーを招集する必要があります。アカツキの組織は縦割りでなく「マトリクス型組織(※2)」のため、部署の垣根に縛られず柔軟に連携がとれるのもポイントです。
※2…一人の従業員が複数の部門・プロジェクトに所属し、事業を進める組織形態

アサインされたデザイナーとプロデューサーがディスカッションする場面では、プロデューサー陣はデザインに理解とリスペクトを持ち、デザイナーがプロデューサーの御用聞きになることもありませんでした。「役職は役割」「権威勾配を避ける(※3)」などの考え方が組織に浸透しているため、協力を頼みやすい環境作りができていたと思います。
※3…権威勾配:リーダー(上司)とメンバーの力関係。二者の力関係の勾配が急であれば、事故になりやすいと考えられている。

HRTの体現が「納得感と信頼」を引き出す

また、組織文化の醸成によって問題に対処できたユニークなエピソードがあります。

キービジュアルには、「ゲームの過去と未来をつなぐ」というメッセージを盛り込みたいと制作サイドは考えていました。しかし、そのメッセージが適切なのか、企業ブランディングの観点で注意すべき規定やポイントがいくつもあり、コーポレートサイドと制作サイドの意見が分かれてしまいました

その際、事業部長は制作サイドの想いを無視しませんでした。「キービジュアルに込められた想いを教えてほしい」と聞いてくれました。両サイドの打ち合わせも繰り返し、結果として、制作サイドの想いを組み入れながら全社的な納得を得られる形で公開することができました。

制作サイドの想いを聞いてもらえたこと丁寧な話し合いがあったことで、各メンバーが納得して修正を進めることができました。この一件にHRTの精神が詰まっていると思います。メンバーの納得感と信頼を引き出すことが連携のポイントとなりました。

完成したAkatsuki Gamesのキービジュアル・トップページ。

組織文化の醸成は「良いものづくり」につながる

組織文化は一朝一夕にできるものではないですし、温度感も人それぞれです。文化作りにコミットすることはとても難しいと感じています。

しかし、文化を共有していることで得られる恩恵は大きいです。目指すべき組織文化を定め醸成していくことで、職種間・役職間の連携の難易度は下がり、結果として「良いものづくり」につながると思っています。


サッカー理論「戦術的ピリオダイゼーション」を応用した採用連携術

面白法人カヤック
人事部・企画部
みよし こういち(note
ゲーム事業部アートディレクターを担当。アカツキでは、八月のシンデレラナインのアートリーダーを経て、現在は新規の自社IPプロジェクトの立ち上げに参加。他、アカツキゲーム事業部特設サイトのアートディレクションや、キービジュアルの制作などを担当。

施策の意思決定基準

もし、自分が忙しいときに企画の相談をされたとして。協力したくなるのは「面白そう」と思えるかどうかです。なので、逆にそう感じてもらえるような採用企画を考え打診することを心掛けています。

企画内容が面白いかも大事ですが、「面白そうにやっている」も重要です。面白そうにやっていることで他の人たちもやりたくなるためです。それで実績を残すことができれば、一緒にやってくれる人も増えていきます。

「面白そう」「面白そうにやっている」、カヤックらしい施策の意思決定基準であり特別なものだと感じています。

施策の意思決定基準を分解するとこうなります(上図)。成果が大きいか小さいかを縦軸、メンバーがやりたいと思うかやりたくないと思うかを横軸。成果が大きく、やりたいと思う施策を考えるのは難しいです。

成果が大きいがやりたくないものよりも、成果が小さいがやりたいと思う施策を選択します。理由は「続けられることしか続かない」からです。そもそも続けられなかったら成果はでません。

楽しい、面白いと思うからモチベーションが上がってアウトプットも良くなります。そして、続けていくうちに結果として成果が上がっていく、ということが流れとして一番多いです。

「戦術的ピリオダイゼーション」の活用

採用における長年の問題として、「採用業務でなにをするべきなのかについての方針がありませんでした。みんなの向かう方向がバラバラで、無駄が多い状態が続いてきました。採用における意思決定基準を作りたい、そう考え最近取り入れているのが、「戦術的ピリオダイゼーション(※4)」というサッカー理論です。
※4…ポルト大学のビトール・フラーデ教授が提唱したサッカー理論。世界中の多くサッカー監督が導入し注目されている。

この理論では、「サッカーとは断続的な判断と意思決定が求められるスポーツ」と定義付けています。これが、採用の意思決定基準を作るベースとしてとても合致していました。

戦術的ピリオダイゼーションには重要な概念が3つあります。「ゲームモデル」「局面」「プレー原則」です。

「ゲームモデル」は、プレーするメンバー、クラブ、自国のサッカー文化など、色々な制約条件を踏まえたうえで、チームが目指すサッカーのやり方をスローガン的にまとめたものです。会社でいうビジョンに近いと思います。

「局面」は、サッカーの試合におけるフェーズの循環のことです。攻撃→ネガティブトランジション→守備→ポジティブトランジション→攻撃……という流れで、刻々と変化し循環していきます。

「プレー原則」は、この局面ではこういう風に意思決定しよう、といったゲームモデルをかみ砕いたものになります。例えば、ゲームモデルが「ガンガンいこうぜ」だとして、「攻撃の局面でのガンガンいこうぜ」と「守備の局面でのガンガンいこうぜ」では、意思決定基準が異なってきます。

戦術的ピリオダイゼーションでは、ゲームモデルの下位に局面が連なり局面に応じてプレー原則を作っていきます(上図)。ただこれではゲームモデルはクレドと同じようにも見え、クレドでも採用の意思決定基準を作れるのではと思えます。しかし、ゲームモデルとクレドでは大きく違う点があります

東京ディズニーリゾートの行動規準

クレドとどう違うのか、好例として東京ディズニーリゾートの行動規準を紹介します。

ディズニーには、「We Create Hapiness ハピネスの創造」というキャストのゴールがあり、それを実現する行動規準として「The Fou Key~4つの鍵~」があります。4つの鍵とは、「Safety(安全)」「Courtesy(礼儀正しさ)」「Show(ショー)」「Efficiency(効率)」です。

これは正しく、戦術的ピリオダイゼーションのプレー原則に当たると感じました。キャストというポジション=局面にのみ適用されるためです。クレドは全社統一の行動規範ですが、例えば、「接客をするキャスト」と「サイト運営の担当者」ではSafety(安全)に対する取り組みは異なってきます。

つまり、クレドを部署や職能ごとの実務に落とし込んだときに、解釈や取り組みが異なってくるのです。採用に全体感を持たせるためには、ゲームモデルを作る必要があると思いました。

カヤックのゲームモデル

結論、カヤックの採用におけるゲームモデルは「カヤックの採用に参加すると、面白く働きたくなる、作りたくなる」です。

面白く働きたくなる」は面白法人として表されており、「作りたくなる」はカヤックの経営理念になります。

このゲームモデルの下でそれぞれの意思決定基準が揃っていれば、採用に携わる現場メンバーにも意思決定を任せられるので、より楽しく採用業務に協力してくれると思っています。


Q&A

Q. 「〇〇な社風にしたいから、これまでいなかった〇〇な人材を採用しよう」ということはありますか?

DeNA 和泉さん
求める人物像にパチッとはまる人材だけでは組織は成長できません。多様な人たちが集まることで化学反応が起こる、はあると思います。それぞれの個性が活躍できる場を用意できるか、という視点で採用を進めることもあります。社風を作るというよりは、世の中にとってイイものや面白いものを提供するための手段の一つだと思っています。
アカツキ 柴田さん
経験として、組織文化へのマッチを重視しすぎたために全体的な考え方が硬直化してしまったことがありました。多様性を持つには考え方をアップデートしながら、カルチャーフィットではなくカルチャーアドが大事です。つまり、新しく入ってきた人たちの考え・価値観を足しながら会社の器を広げていこう、というのを今は心掛けています。
カヤック みよしさん
そもそも、面白法人としての「面白」には色んな方向のことをやっていくという意味が込められているので、アナウンサーや音楽クリエイターなど、様々な異業種の人たちを採用しています。「今までいなかった人というのは、逆に今までいた人たちのことを考えているということの表れでもあります。そこはあまり考えずに、この人はカヤックに合うし面白いだろうな、と感じた人を採用しています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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