組織に属するなかで「こんなチームを作りたい」「こんなチームに変えていきたい」と思ったことはないでしょうか。一人ではなくチームだからこそ、大きなことを成すことができる。それが組織(チーム)で働く最大のメリットであると感じる方も多いと思います。

2020年7月30日、デザイン組織のナレッジ共有会「#デザナレちょい見せ」(主催:株式会社ビビビット)は「やってる風から抜け出すチームビルディング」をオンラインで開催。

面白法人カヤック、株式会社LIFULL、合同会社DMM.comの各担当者をお招きし、チームビルディング(※1)の実践例をお話いただきました。本イベントの内容を一部抜粋してご紹介します。
※1…個々人の能力を最大限に発揮させ、目標達成できるチームを作り上げていくための取り組み。

【ゲストスピーカー(敬称略)】

  • 岩瀬 茂樹|面白法人カヤック ゲーム事業部 マネージャ
  • 河西 紀明|合同会社DMM.com CTO Office デザインストラテジスト 兼 UI/UXデザイナー
  • 鈴木 亜依|株式会社LIFULL UI/UXデザイナー


カヤックのクリエイターがワークするために聞いているたった一つの問い

面白法人カヤック
ゲーム事業部 マネージャ
岩瀬 茂樹
note
広告制作会社のデザイナー/ADを経て、2015年に株式会社カヤック入社。クライアントワーク事業部でWebデザイナーを経験後、2016年にゲーム事業部へ異動。UIデザイナーとしてモバイルゲームの開発に携わる。現在は事業部マネージャ(事業部内の人事)を担当。

クリエイターに聞いているたった一つの問いとは、「あなたは面白く働けていますか?」です。「面白法人」を掲げ様々な人事施策を行っていますが、すべては「面白く働く」ためにあります。

「サイコロ給」「ぜんいん人事部制度」など、ユニークな社内制度を多数実施。

なにを「面白い」と思うかは人それぞれなのであえて言葉で定義していませんが、最大公約数的な答えは「仕事と主体的な関わりを持つこと」だと考えています。

そのために、会社で大事にしているのは「ブレスト」(※2)です。「他人のアイデアに乗っかる」「アイデアの数を出す」が大切で、トレーニングとして日常的にかなり行っています。

※2…ブレインストーミング。複数人で自由にアイデアを出し合う会議手法の一つ。

仮につまらないアイデアでも、周囲が乗っかることでブレストの場がどんどん盛り上がっていきます。そして、一つの課題をみんなで集中して考えることにより、課題が「自分ごと化」していきます。「自分ごと化」における主体性こそが、ブレスト脳=面白がる体質で、カヤックのブレストはその練習にもなっています。

また全社的な施策の代表例として、「360°フィードバック」があります。四半期に一度、自分が取り組んだことを社内サイトに記入し、周りの社員からフィードバックが貰えるという評価制度です。上司だけでなく、部下やあまり関わりのない人まで、誰からでもフィードバックを貰え、自分で指名することもできます。全員の評価を読めるので、新卒でも社長の評価を読んだりコメントができ、カヤックのとても重要な文化の一つです。

「360°フィードバック」の社内ページ。一人の自己評価(内省)/他者評価だけでも、非常に長い文量になる。

事業部単位の施策の代表例として、「リフレクションラウンドテーブル」(※3)があります。ゲーム事業部の場合、職能別で5,6名のチームを作り、1ヶ月に1,2回行っています。直近数週間の印象的な出来事をありのままに話してもらい、聴いているメンバーはアドバイスではなく、気付きにつながるような質問をしてもらいます。質問に答えることで自分の価値観に気付いたり、それによって次の行動が変われば、それが成長につながると考えています。

※3…主にミドルマネジャーの育成などに利用されるマネジメント開発育成プログラム。

1on1」(※4)もカヤックの独自性が強く、「面白く働けていますか?」を定点観測しながらシナリオを組んで行っています。相手が元気なのか元気でないのか、元気なら、内省から行動変容を促す質問をし、元気でないなら、それが肉体的なのか精神的なのかなど質問し、最終的に産業医へエスカレーションするルートもあります。

※4…上司と部下が1対1で、短時間かつ定期的に行う面談。

「1on1」シナリオの例。「面白く働く」を定点観測しながら、成長に繋がる振り返りを実施。

プロジェクト単位の施策の代表例として、「本音を語る会」があります。開発が長期化した新規ゲームのプロジェクトで行っていました。「言いにくいことも正直に話す」をベースに敷き、全30名が1名ずつ、プロジェクトの進行について思っていることを打ち明けます。ときには、感情的にヒートアップすることもあったのですが、仲が悪くなるといったことはなく、各メンバーがプロジェクト全体を「自分ごと」で考える契機となりました。

まとめると、色んなことをやっているのですが、それはすべて「面白く働く」ためにやっていて、面白く働くことで評価される文化になっています。そのためにブレストして「仕事と主体的な関わりを持つ」ことを促進していますが、それが経営理念や「面白法人」を体現することにつながっています。

「あなたは面白く働けていますか?」の問いに、すべての人事施策が一貫してつながっている。


TBD共創を目指すための再現性あるチーム設計

合同会社DMM.com
CTO Office デザインストラテジスト 兼 UI/UXデザイナー
河西 紀明
Twitter , note
地域情報出版社のサービスデザインからキャリアをスタートし、フリーランスのWeb開発者やコンサルタントを経て現職。ECサービスのグロースや開発チームの組成などに携わる。ビジネス設計からテックもこなすユーティリティなデザイナーとして、先進技術領域(ブロックチェーン/VR)のプロダクト設計や社内外のスタートアップ開発も支援。

チームビルディングの一貫として「新入社員研修」のカリキュラムに力を入れています。昨年から「新入社員研修」の内製化をオフラインで進めていたのですが、全社的にフルリモートになったのでオンライン化せざるを得なくなりました。

デザイナーは、プロダクト視点(Tech)ビジネス視点(Business)ユーザー視点(Design)、このTBDを組織やサービスに合わせて俯瞰して見る必要があります。新入社員がこの基礎能力を身に着けて現場とのギャップを埋めていくために、新入社員研修はとても大切な学習機会だと考えています。

DMM.comが定義する「次世代デザイナーの基礎能力」。専門領域やキャリアのバックボーンが異なるメンバーが多いため、誰もが理解できる共通言語を重視。

研修の一つとして、3年前から「レゴを活用したチームビルディング」というワークショップの設計・実施に取り組んでいます。お題は「チームで街を作る」。街は様々な施設(機能)の集合体として成り立っているので、街も一つのサービスとして捉えることができます。

普段の現場では、エンジニアのプログラミングスキルとデザイナーの情報設計・ビジュアライザーションスキルが、お互い尖りながら一緒に仕事をしています。しかしここでは、レゴブロックという誰でも使える共通ツールを使用することで、フラットな関係性が構築できます。そのうえで、お客さん側の体験・開発者側の体験・チームリーダーの体験など、複数の役割を体験できるので、とても優秀なワークショップです。

今年の研修はオンラインだったため、レゴブロックをホワイトボードツール上で部品化して再現。

チームビルディングで大事なのは、課題に対する解決策を思考し、みんな同じビジョンに向かって「良いもの」を作ろうとすることです。なので、課題を共にするメンバーに対し、自分自身が「どのように向き合うか」を学ばせることを意識しています。

施設を作ってお客さん役のメンバーからフィードバックを貰い、成果物と開発プロセスを振り返る。これを3回転ぐらいすると建設的な学習が進み、非常に良いチーム力が生み出されます。

このプロセスを一度体験したチームは非常に強いです。ゴールを目指すうえで、働く環境や市場自体が変化したとしても、その変化に適応するために個々が主体的な行動をとるようになります。それにより、課題解決の足並みを揃えられスムーズに再始動できます。本研修は、チーム作り・組織作りのための再現性高い能力・思考を身に着けることができるので、新入社員研修のうちに体験することにとても重要な意味がありますね。

「最高」を考えることでユーザー視点を養う。そして、「フィードバックを貰って振り返る」をチームで繰り返す。

もう一つ大きなものとして、「サービス企画・ソリューション研修」をやります。一言でいうと、オンラインでのハッカソン(※5)です。形式的にはデザインスプリント(※6)に近いですが、検証可能なプロトタイプの作成まで行うのが大きな特徴です。

※5…エンジニアやデザイナーからなる複数のチームが、与えられた時間のなかでアイデアや成果を競い合う開発イベント。
※6…デザイン上の問題を解決するために、短い期間に高速でプロトタイピングと検証を行う方法論。

はじめに、チームでマインドマップ(※7)などのフレームワークを活用し、身近な課題を発見・分析します。そして、アイデア・ドローイング(※8)やシナリオスケッチ(※9)をして、解決策を量産・具体化します。これらのプロセスは、デザイナー・エンジニア・ビジネス職の混合で進めます。

※7…整理したい概念を中心に置き、様々な思考・アイデアを中心から分岐させる形で描写する表現方法。
※8…コミュニケーションツールとして図を描写する方法論。
※9…ストーリー形式でユーザー体験などをイラストにまとめる表現技法。

ディスカッションを重ねながら、最終的にFigma(※10)などを活用してプロトタイピング(※11)を行い、サービス発案まで落とし込んでもらいます。

※10…Figma Inc.(米国)が提供するデザインツール。
※11…実働するモデル(プロトタイプ)を早期に開発する手法およびその過程。

複数のフレームワークを組み合わせながらワークショップを実施。

こういった開発フローの体験は、事業やチームで実務に入ると経験する機会が極端に減ってしまうんですよ。なので新入社員研修のうちから、フレームワークを活用した「0→1」「1→10の思考プロセスを、チームで体系的に身に着けてもらうようにしています。

学校では学べない内容ですし、現場でまとまった時間を確保して実施するのは難しいです。チームビルディングなどの「チームを作る体験」って早めに学んでおくに越したことはありません。

これは、キャリアデザインのなかでもコアスキル寄りなので、下支えとして「どんなチームでも活躍できる」「みんなで協力すれば良いものが作れる」というタフなマインドセットが身に付くことを期待しています。

キャリアデザインにおけるスキル分類。どんなチームでも通用するスキルが身に付けば、それが自信となって卓越性の成長にもつながる。

あと、今年の新入社員研修はフルオンラインで行いましたが、やはりオンラインでは、気軽な雑談や偶発的な社員同士の交流を生み出すことは難しいです。心理的安全性への配慮などを考えると、今後はオフラインでの対策も色々と行なわねばなりません。

そんななか、昨今では「オフィスごとリモート化」なども推奨されはじめました。なので今後は、今まで試してみて一番良かったチームビルディングの施策パターン「DevCamp」(開発合宿)を推進したいです。

「DevCamp」は普段の業務やタスクでの関わりだけでなく、設計次第では、チームメンバー同士でキャリアや学習の興味分野などを話す機会になります。不安や期待などを含めた自己開示が進むため、チームのエンゲージメントや個人のキャリア満足度を引き上げる結果を生みやすいです。

単純にモノづくりが好きな人にとっては楽しいこと尽くしなので、コロナの夜明けと共に、組織内外の方々と「DevCamp」がしたいと思っています。

河西さんがオーナーをされている「ゲストハウス黒崎BASE」。モノづくり合宿や開発合宿での利用に限り、1名あたり1泊2日+朝食付 / ¥1,000 という破格の「DevCamp割」を行っている。


バックキャストで考えるチームビルディング

株式会社LIFULL
UI/UXデザイナー
鈴木 亜依
2011年4月に株式会社LIFULL入社。前職では、雑誌編集やゲームイラスト制作、Web受託制作など広範囲にデザインを経験。入社後、主に「LIFULL HOME’S」に関するコンセプト策定やUI/UXデザインの他、「LIFULL HOME’S 海の家」の企画制作やR&D部門とのサービス「LIFE WILL」の開発などを手掛ける。

LIFULLでは、チームビルディングを「会社の生産性を上げる」ためのとても重要な施策と考えています。業務時間を使って実施可能で、社員全員分のチームビルディング予算がついています。各チームがメンバーの状況などに合わせて、自由に企画・実施しています。

チームビルディングの軸として、「タックマンモデル」を推奨しています。チームの成長段階を分解したフレームワークで、「形成期」「混乱期」「統一期」「機能期」のフェーズに分かれており、各フェーズで行ったほうが良いことが定義されています。


チームの成長段階を分解した「タックマンモデル」。フェーズによって施策の目的が異なる。

私が関わるメンバーは、プロジェクト単位でアサインされるプロジェクトメンバーと、デザイナーで構成されるグループメンバーの2つがあります。この2つは、目的やメンバーの性質が異なるので、求められることも当然異なります。そのため、チームの成長段階にもう一つ、「バックキャスト」(※12)が必要だと思っています。

※12…ありたい姿・あるべき姿(理想・目標)から、いまなにをすべきか考える未来起点の思考法。

バックキャストで考えるため、プロジェクトメンバー・グループメンバーそれぞれの「理想のチーム像」を設定。

プロジェクト単位でアサインされるプロジェクトメンバーの場合、タックマンモデルでの「形成期」に位置し、「お互いを知る」「本音で考えを語り合う」施策が必要でした。バックキャストで考えると、「一つのものを協力達成する」「議論ができる」施策が良いなとなりました。

実施施策として、「人狼ゲーム」(事例①)を行いました。プロジェクトメンバー同士の関係性が浅いことでどうしても心理的安全性が低くなり、課題として「MTG中に意見を出す人が限られてしまう」ということがありました。「人狼ゲーム」では等級や立場などを取り払い、擬似的に意見のぶつかり合いや対立を体験してもらいました。

プロジェクトメンバー同士で「サバイバルゲーム」(事例②)も実施。チーム一丸となって行動することを模擬的に体験。

デザイナーで構成されるグループメンバーの場合、タックマンモデルでの「統一期」に位置し、「ビジョンや戦略とのギャップを埋める」施策が必要でした。バックキャストで考えると、「キャリアやデザインの知識・成長につながる」「一歩踏み込んだコミュニケーションがとれる」施策も必要でした。

実施施策として、「美術館に行く」(事例③)ということを行いました。雑談が生まれるほど仲の良いメンバーなのですが……同じ仕事にアサインされることが少ないため、ビジョンやクリエイティブについて「ディスカッションする機会が少ない」という課題がありました。美術館に行った後、クリエイティブに取り入れられそうな発想など、LIFULLのクリエイティビティについて語り合いました

プロジェクトメンバー同士で「アシミレーション」(事例④(※13))も実施。

※13…チームリーダーとメンバーの相互理解を深め関係構築を促進する、組織開発手法の一つ。

指標計測として、リンクアンドモチベーションのツールを使い「エンプロイーエンゲージメントサーベイ」を行っています。チームビルディング関係なく、「組織の健康診断」として年に1,2回全社的に行っています。

「なにをどの程度期待しているのか」「なににどの程度満足しているのか」の2つの観点で質問を行い、その回答から組織状態を数値化することができます。チームビルディング関連の数字は、「部署内での役割責任の明示」「オープンでフランクな姿勢」などに反映されるので、その辺りの数字を指標として追っています。

チームビルディングは、ただ「楽しい」「仲良くなる」ことをするものでありません。タックマンモデルを軸にしたチームの成長段階、バックキャストに基づいた目標、この両視点から企画することで、よりスピード感をもって成熟したチームになることができると考えています。

「エンプロイーエンゲージメントサーベイ」を行い、チームビルディング施策に該当する項目の結果を追っている。


Q&A

Q. 実施施策が形骸化することもあると思います。継続するコツはありますか?

岩瀬さん
カヤックでも形骸化はありますね。時間が経つと会社の状況が変わったり、メンバーが変わると上手くいかないこともありますし。それは仕方ないよね、ということで見直ししています。「1on1」「リフレクションラウンドテーブル」も今年の初めにガラッとやり方を変えました。
河西さん
形骸化に近しいことだと、手段が目的化してしまうことがあります。例として、トップダウンで「スクラム」(※14)導入してしまったチームがあります。良い経験となった部分もありますが、結果的に開発スタイルの急速な変化に馴染めず、「スクラム」自体を止めたり、事業や開発体制に合わせてカスタマイズしたりしました。やってみて良かった部分だけ抽出するのが大事だなと思います。

※14…チームのコミュニケーションを重視したアジャイルソフトウェア開発手法の一つ。

鈴木さん
弊社は各チームが企画・実施しているということもあり、形骸化というのはあまりないのですが、企画内容が「チームでただ楽しむ」というものになることがあります。対策として、企画内容を上長が確認して、「チームビルディングという目的に即した意味のある内容」でないと承認がおりないプロセスになっています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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