『課題解決』に対する、学生の理解度を高める必要がありました」そう語るのは、Visionalグループでデザイナー・エンジニア職の新卒採用責任者を務める佐藤さん。

自社のデザイン・フィロソフィー(デザイン哲学)のなかで「課題解決」を掲げながらも、これ自体が「学生には伝わりづらい」という採用課題に直面しました。

入社後の定着・活躍まで見据え、この採用課題に対しどのような解決策を講じたのか。今回はデザイナー21年卒採用に焦点を当て、採用背景となる同社のデザイン組織やデザイン・フィロソフィー、具体的な採用施策等をお聞きしました。

Visionalグループは、2020年2月に株式会社ビズリーチがグループ経営体制に移行したことにより誕生しました。転職サイトの「ビズリーチ」「キャリトレ」や、人財活用プラットフォームの「HRMOS(ハーモス)」、事業承継 M&Aプラットフォームの「ビズリーチ・サクシード」、サイバーセキュリティ領域の「yamory(ヤモリー)」など、産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する10以上の事業を展開しています。
株式会社ビズリーチVisionalグループ
人財採用部 プロダクト新卒採用グループ マネージャー
佐藤 汰さん

2015年新卒入社。ビズリーチ事業の新規営業、カスタマーサクセス、営業企画を経験したのち、2018年8月よりビジネス職、デザイナー職のキャリア採用を担当。現在は、デザイナー・エンジニア職の新卒採用責任者を務める。
株式会社ビズリーチVisionalグループ
人財採用部 プロダクト新卒採用グループ デザイナー採用担当
松田 莉奈さん

2018年新卒入社。ビズリーチ事業のカスタマーサクセスを経験したのち、2019年8月より、デザイナー職の新卒採用を担当。
株式会社ビズリーチVisionalグループ
デザインプログラムマネジメント室 デザイン・ブランディンググループ マネージャー
戸谷 慧さん

2014年新卒入社。求人検索エンジン事業(スタンバイ)の立ち上げにおいて、UIデザイン、UXデザインを担当したのち、プロダクトオーナーとして開発を推進。2018年8月より、デザイン戦略組織にて、デザイン・ブランディング業務に従事。2019年5月より責任者を務める。現在は、新規事業のサービスデザインも担当。


組織を強くする、Visionalのデザイン哲学

――まずは、御社のデザイン組織について教えてください。

佐藤さん:
当社には、グループすべてのデザイン業務を管轄する「デザイン本部」という部門があり、そこに約70名のデザイナーが所属しています。

デザイン本部内の主な部署は3つで、各プロダクトのUX/UIを司る「プロダクトデザイン室」、グループ全体の顧客接点を司る「コミュニケーションデザイン室」、デザイン組織の推進を司る「デザインプログラムマネジメント室」になります。プロダクトデザイン室・コミュニケーションデザイン室に所属する社員は、組織横断的に各プロダクトに携わっています。

――御社は積極的にデザイナーを採用されていますが、新卒採用含め、その理由についても教えてください。

佐藤さん:
「新しい可能性を、次々と。」というVisioalグループのミッションが大前提としてあるなかで、本質的に価値あるものを世の中に届けるためには、より一層、個が価値を発揮できる会社をつくる必要があります。デザイナー採用も、そうした組織づくりの観点で必要不可欠だと考えています。

なぜかというと、「デザインは単にビジュアルだけを指すのではなく、あらゆる計画や思考にも適用できる、課題解決と紐付く概念だからです。デザイナー採用によって、デザイナーと非デザイナーの協働を増やしていく。そして、会社全体に「デザイン」が浸透していけば、一人ひとりがデザイン人材(※1)として成長し、課題解決に向けた価値の発揮がより促進されると考えています。

※1…高度デザイン人材(「デザイン経営」宣言で提唱)。ビジネス・テクノロジー・デザインのスキルや思考が結合した人材。

新卒社員はいい意味で一から経験を積み上げていけるため、会社で最も伸び代が大きい方々です。そのため、これまでになかった新しい価値の発揮が期待でき、想像もしていない変化を組織や事業にもたらすことのできる存在と捉えています。まさに、新卒採用そのものが「新しい可能性」の一つといえますね。

――組織づくりという点で、御社のデザイン・フィロソフィーとも密接に関わっていそうですね。

佐藤さん:
そうですね。当社のデザイン・フィロソフィーWe DESIGN it.は、Visionalのデザイナーが目指すべき姿として宣言しています。ここには、「デザインのチカラを駆使して課題解決と価値創造を生み出していく」という想いが込められています。

デザイン・フィロソフィー「We DESIGN it.」。「We DESIGN ◯◯.」というように、穴埋めの形式で各部署のミッションも設定している。

戸谷さん:
デザイン組織が拡大していくなかで、大切にしていることや行動の指針などが、みんな似ているけれど説明するのは難しい……という状態がありました。このモヤモヤを改めて言語化することで、デザイナーとしてより価値を発揮できるのではないか。そうした考えのもと、デザイン・フィロソフィーはつくられました。

後に定義されたVisionalグループのミッションともリンクし、「課題をビジョンに変えていく」という目的を達成するための指針にもなっています。

ただ、社会が変化するなかで生まれる様々な課題を、デザインのチカラだけで解決することは当然できません。ですので、職種問わず全員で解決しにいく姿勢が大切です。

カスタマーサクセスと一緒に顧客と向き合ったり、エンジニアと一緒にプロダクトの改善について話し合ったり。私はデザイン組織を推進する立場として採用活動に携わっており、採用という業務にもデザイン・フィロソフィーは通底しています


デザイナーと人事、約1年間におよぶ採用準備

――21年卒向けのデザイナー採用は、どのような流れで動きましたか?

佐藤さん:
大まかな流れとしては、まず人材要件を定義し、次に母集団形成のための広報活動をはじめ、個々人をより深く知るための面談やイベントを行いました。そのプロセスを経て、最後に本格的な選考を進めました。

過去の採用活動の傾向として、3年生の夏という早い時期に就活を開始されている学生には、思考性の面で当社とマッチする方が比較的多くいました。

そのため、そのような方とお会いできる機会を増やす施策として、夏から秋にかけてイベントを行いながら、冬までには選考を終えるスケジュールで動きました。

――採用活動の走り出しとして、人材要件はどのように固めましたか?

佐藤さん:
これは問題だったのですが、21年卒採用の当初は、人材要件をしっかり言語化しないまま動いてしまった部分がありました。

といいますのも、Visional新設に伴い、採用方針の大幅な見直しも並行して進めていました。約1年間という長い準備期間のなかで、当初考えた新しい人材要件では言語化が甘いと感じることが多く……。「結局どんな方と一緒に働きたいのか?」とチーム内でもあやふやになってしまっていました。

ここの認識が統一されていないと、選考プロセスや採用施策を、採用のゴール(入社後の定着・活躍)から逆算して立案することはできません。

Visionalの人材要件として今後のベースになるとも考えていたので、デザイナーと人事の定例MTGの頻度を上げ、連携をより密にしました。そして、人材要件の再定義と認識合わせに多くの時間を割きながら、約1年間かけて採用施策を練っていきました。

――デザイナーが長期間かつ定例で参加されるのはとても珍しいですね。

戸谷さん:
私が所属するデザインプログラムマネジメント室はデザイン組織を推進する部署なので、採用にも立ち上げから関わっています。この部署で私が担当しているのは採用広報ですが、もう一つ、デザイナーの人員計画や育成、オンボーディングを担当するデザイナー・サクセス」という役割もあります。

まずは、CDO(Chief Design Officer)とデザイナー・サクセスの主導で人員計画を立案し、それを人事に提案します。人材要件を固めるには現場との擦り合わせも必要なので、その際には各事業部のデザインマネージャーも定例MTGに参加してもらっています。

採用広報では、採用ブランディングの方針や年間の採用施策を人事と一緒に練っていきました。


採用活動でも「本質的な課題解決」を

――採用活動全体を通して、一番の課題はなんでしたか?

佐藤さん:
最も大きな課題だったのは、Visionalの根底にある課題解決の哲学が、実務経験のない学生には伝わりづらいということでした……。どうすれば解像度高く学生に理解してもらえるのか、採用活動を進めるなかで「『課題解決』とはなにかが伝わりづらい」という課題にぶつかりました。

松田さん:
前提として、綺麗に整えられたアウトプットや表層をつくるスキルも大切ですがそれが課題解決という目的から逆算されているかが重要なポイントです。「それ、なんのためにやるんだっけ?」とチームで問い続けながら、デザインという武器で価値を発揮してほしいと考えています。

仮にそれを理解されないまま入社に至ったとしても、入社後の環境や業務にミスマッチを感じてしまうと思うので。入社前だけの問題ではなく、入社後の定着・活躍まで紐付いた本質的な課題でした。

――その課題に対し、どのような対策を講じましたか?

松田さん:
具体的には、デザインプロセスを体験してもらうインターンシップやワークショップを開催したり、多摩美術大学の「デザイン・マネジメント実践」(※2)という講義の、第2ターム・全7回を担当させていただきました。
※2…デザイン・マネジメント:デザイン資源の戦略的活用によって企業の経営課題を解決しようとする概念。

課題解決が伝わりづらい要因の一つとして、サービス・プロダクト開発を学ぶ機会が少ないというのがありました。それであれば、当社がそういった場を提供して、学生に課題解決の面白さを体験してもらうのはどうかと考えました。

多摩美術大学での講義は、「就活生の課題を解決するプロダクトをつくる」というテーマで、最終的にプロトタイプまで落とし込み提案までしてもらいました。学生と同じく、当社も講師という立場での初の試みで苦戦した部分も多かったです。

良い体験を提供できるか不安もありましたが、最後はご参加いただいた学生からポジティブな感想を多くいただくことができました。

多摩美術大学・統合デザイン学科で講義を実施。内容がまとめられたブログ記事はこちら

――イベントや講義では、学生に対し「課題解決」をどのように説明しましたか?

松田さん:
身近な人の困りごとであれば「解決してあげたい!」と思う学生は多くいます。ですので、「その友達や家族への視点を学校や社会全体に広げていくと、世の中の課題解決につながっていく」ということは頻繁に伝えるようにしました。

人を助けたいって想いも課題解決になるんだ」と気付きを得てくれた学生もいて、とても嬉しかったです。

戸谷さん:
よく例で出すのは、Amazonや楽天などのEC型の書店です。彼らの登場により、ユーザーはより多くの本と出会えるようになりました。また自費出版の場合、プラットフォームに出品することで、すぐにユーザーとやり取りできるようにもなりました。

ただここで大事なのは、旧来の流通システムにもメリットを感じる方はいて、その方を無視してはいけないということです。課題解決は旧来の構造を排斥するものではなく、新しい構造によって生じた歪みを整えながら、「可能性を広げること」と伝えています。


200名以上と面談、「学生の声」という金脈

――一つひとつの採用施策が、とても入念に企画されているなと感じました。準備段階の詳細も伺わせてください。

松田さん:
準備では、学生のインサイトを理解することに多くの時間を割きました。学生と直接話すなかで、サービス・プロダクト開発について「講義や独学だけではわかりづらい」「デザインがどのように関わるのかもっと知りたい」という意見がとても多くありました。

また、話を聞いていて「結局この方はどういった方なのか?」と思うことも多々ありましたね。様々な専門性を高めてきたこと自体はとても素晴らしいのですが、スキル・経験しか話さないのは非常にもったいない。なぜ頑張ってきたのか、なにをしたいのか、どうありたいのか、ご自身の内省があと一歩の方・伝えるのが得意ではない方も多かったです。

最終的に200名以上の学生と面談し、様々な声をいただきました。人材要件の再定義では、当社のバリューに意義を見出せるかのカルチャーフィットを前提としたうえで、「課題解決の思考性」「モノづくりへの根源的な好奇心」を、重要な内的要素として定義しました。

そして、それら要素を持つ学生にVisionalを認知・理解してもらうために、イベントや採用広報コンテンツを練っていきました。

――採用広報コンテンツは、具体的にどのようなものを作られましたか?

松田さん:
おかげさまで、当社のデザイン組織やデザイン・フィロソフィーは、学生にも徐々に認知されるようになってきましたが、具体的なアウトプットについてはあまり知られていないという課題がありました。

例えば、ViViViTですと、確かに組織やサービスを伝えるコンテンツばかり掲載していたなと……。ですので、サービスのロゴリニューアルやグラフィックなど、事業会社としてどんなデザインをアウトプットしているのかを伝えるコンテンツを、積極的につくりました。

Visionalの『ViViViT』ページ。デザイナーのアウトプットを多角的に紹介。

また、学生と年齢が近い新卒入社1,2年目のデザイナーから、『ViViViT』のフィードバックを細かく貰いました。足りないコンテンツの追加など、改善アクションは毎週繰り返しましたね。

ViViViT経由の応募数は顕著に増えましたし、月によってはスカウトからのマッチング率が80%を超えることもありました。

――最後に、今回の採用活動の結果と総括をお願いします。

佐藤さん:
20年卒採用と比較して、約半年ほど前倒しして早期に採用枠を充足させることができました。『ViViViT』経由で採用した方もいらっしゃいます。ViViViTは応募から一次面接までの通過率が他チャネルの約1.5倍と非常に高かったです。

今回の採用活動では、事実を集める仮説を立てる企画する振り返る、というプロセスで進めていきました。直面した採用課題から目を背けず、地道なプロセスで本質的に価値ある解決策を講じたからこそ、良い結果で終えることができたと考えています。

Visionalも、学生にとってはキャリアにおける一つの可能性だといえます。今後も常にその意識を持って、学生のインサイトに即した「新しい可能性の提供」を続けていきたいと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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