営業、デザイナー、エンジニア、広報……組織で働くメンバーをどのように集めていますか?さまざまな職種の中でもデザイナーやエンジニアは特に専門性が高く、採用での悩みも多いのではないでしょうか。
採用は、まず相手を知ることが大切です。自社の同職種を巻き込んだり、事業フェーズや組織規模に合わせてマッチするポイントを整理したり。
そんななか最近では全社一丸となって組織づくりにかかわる「スクラム採用」が話題になっています。
今回はデザイナー・エンジニア採用の悩みを抱えている方に向けて、2019年6月28日(金)に開催されたセミナー「成功事例から学ぶスクラム採用の重要性」で紹介されたポイントをレポート。
当日は採用のプロ4名が登壇し、それぞれの立場から見た採用についての知見が得られました。
寺口 浩大(株式会社ワンキャリア/経営企画室)
赤川 朗(株式会社grooves/Forkwell 事業部長)
小宮 大地(株式会社ビビビット/代表取締役)
平岩 力(株式会社セプテーニ/コーポレート本部 人材開発部 部長)
開催概要についてはこちら
求職者の分散投資型思考とブランドビルディングを理解する
まずはじめは、就職クチコミサイト「ONE CAREER」の運営や採用コンサルティングをおこなう株式会社ワンキャリア寺口さんから、最近の採用マーケット全般についてのお話です。
ワンキャリアでは、経営企画室でPRディレクターを務めている寺口さん。セミナーでは人事とPR両方の立場から考える、求職者の思考の変化や企業のブランドビルディングについて解説いただきました。
求職者の思考は「貯金型」から「投資型」の時代に
近年の求職者は、1社に長くとどまって経験を積む「貯金型」から、将来的なキャリアチェンジを視野に入れ、現在の仕事が今後どんな価値をもつか考えて働く「投資型」の思考をもつ人が増えています。投資型の人は、その会社にいた時間が将来どんな資産になるかを常に意識し、キャリアチェンジを考えた上で在籍期間や乗り換え方を考えているのです。
その状況をふまえて、企業は広告等によるイメージ付けだけでなく、実際に働く「人」に対して会社がもつ価値観のもとにおこなったアクションの履歴(有言実行の実績)の開示が採用・広報の両面から求められています。
最近はオウンドメディアやSNSなど求人媒体以外でもさまざまな手段で情報発信ができるうえ、このメディア化により発信元の主語が増えたため、コミュニケーションの方法も複雑化しました。メディアの多様化を理解しながら、時代にあった形の発信施策を取り入れることも必要といえます。
コミュニケーションはコントロールするものからデザインするものに変わりました。
ブランドづくりと期待値のコントロール
採用にかかわらず、ブランドという概念には「信頼」が強く関係しています。個人から信頼されているとはつまり、企業への「期待値」が高いということ。この「期待値」の大きさは、企業が消費者・生産者(働く人)にそれぞれどんな約束をし、それをどれだけ守ってきたかによって変わってきます。
これまでは消費者との約束を守ることに、膨大な投資がされていました。今後は約束を守るべき対象として、生産者のプレゼンスが大きくなるでしょう。
企業ブランドを支える信頼を保ち、社内外からの期待値を常に維持していくには、事業成長による企業価値の向上と、社員に対して良い体験を継続して提供することが肝。
特に後者の実現においては、採用や育成のマインドセットとスキルセット共に、人事部門以外に浸透させる工夫も必要になってきます。
各種施策やツールにかかるコストの費用対効果が説明しづらいのも、採用の難しいところ。寺口さん曰く、費用の増加を認めてもらいにくい場合、人件費や広報宣伝費といった「コスト」として予算を得るのではなく、採用した人が入社した結果資産化するロジックを仮設計して、採用が「投資活動」であることを証明することにより経営に対する説得力が増すそう。
寺口さんのお話は採用や広報の手段に限らず、企業のブランド投資を考える上でも意識すべきポイントが詰まっていました。
企業において一人ひとりがブランド価値や組織づくりを考えるためのヒントになりそうです。
エンジニアの転職市場とスクラム採用の成功事例
赤川さんが事業責任者を務めるForkwellは、株式会社grooves(グルーヴス)が展開するIT・Webエンジニア向けのマッチングプラットフォーム。ポートフォリオベースでエンジニアの技術力を可視化し、現在は事業会社を中心に企業と技術者の出会いを支援しています。
今回は、エンジニアの転職市場感と、実際にForkwellを通してダイレクトリクルーティングに成功した企業の事例を紹介していただきました。
エンジニアの転職市場
現在、ITエンジニアの有効求人倍率(求職者に対して出されている求人の数)は約8倍と言われています。数字だけで考えると、エンジニアを1人採用するには同時に並んだ他の7社に競り勝つ必要があります。
ただ、技術者の中でも優秀な人は情報収集力が高く、仕事に困っていないケースも多いです。このような状況のため、「良い人材を自分たちから採りにいく」アクションの必要性を私自身が事業に関わる中でも強く感じています。
事例:エンジニア全員が採用にコミット
A社は、Forkwellのデータベースから人事が気になったユーザーをピックアップし、現場のエンジニア全員がポートフォリオを見て、良いと思ったユーザーにスカウトを送るダイレクトリクルーティングを実施しました。
そして選考前には面談を設定して企業と候補者がお互いの価値観を確認し、そこから応募があった場合はエンジニア全員が面接に参加します。この面接を事実上の最終面接として、エンジニア全員がOKの判断を出したら内定。
全員が意思決定に参加するので入社後のミスマッチを減らせると同時に、一次選考を最終選考にすることで採用にかける工数を抑えることもできました。
事例:スクラム採用の一部になるカスタマーサクセス
B社ではForkwellのカスタマーサクセスと同じSlackチャネルを用意して、担当者と直接コミュニケーションをとる機会を増やしています。企業の垣根を越えて協力し合う、スクラム採用の新しい形です。
採用のプロセスづくりにお互いが参加しあって施策を進めた結果、2ヶ月に1名のペースで採用に成功しています。
採用難といわれる専門職の中でも、ひときわ難しいエンジニア採用。紹介された成功事例からは、「採りにいく」姿勢とともに、部署や企業の垣根を越えた連携が採用に大きく関わっていると学べました。
デザイナー採用はなぜ現場の巻き込みが重要なのか?
「ビジネス部デザイン課」を運営する、株式会社ビビビットの代表・小宮。2013年に国内初のポートフォリオ型のクリエイター採用サービスとして「ViViViT」をスタート。この日は事業を展開する上で感じた知見を元に、デザイナー採用現場の課題やスクラム採用の重要性についてプレゼンしました。
デザイナー採用におけるスクラムの重要性
専門職であるデザイナーの採用には、「ポートフォリオ」が必須です。ただその評価には判断軸が複数あり、人事が単純にクオリティで審査したとしても、現場のデザイナーにとっては制作の工数や実務での作業範囲が採用のポイントになることも。この状況をふまえて、デザイナー採用は現場を巻き込む進め方がとても重要です。
営業の過程で企業にヒアリングをして気づいたのは、求めているデザイナーの条件や具体像は全ての現場で同じわけではないということです。
自分たちの会社でより活躍できる人材を採用するためにも、人事の担当者と現場が「どんなデザイナーを仲間に入れたいか」の視点をきちんとすり合わせる必要があります。
現場視点だからできるコミュニケーションの価値
デザイナー自身が採用に携わると「実際の現場で誰とどんなものをつくるか」を応募者が具体的に質問しやすくなります。
ポートフォリオを見てスカウトするダイレクトリクルーティングも、デザイナーが入ることで作品についての感想やアドバイスが言えるためメッセージが活発になり、好感度や期待値があがる事例も出ています。
これらを踏まえ、デザイナー採用ではぜひ現場が参加する大切さを意識してもらえたらと思います。
セミナーでは、昨年発表された『デザイン経営宣言』についても触れました。技術的な戦力としてはもちろん、単純なビジュアライズにとどまらないデザインの実践者を探す意味でも、今後のデザイナー採用は企業にとって大きな意味をもってくると考えさせられました。
HRテクノロジーを活用した採用・人材育成
最後はセプテーニで採用や組織開発に携わる平岩さんより、データを活用した採用の最新事例を紹介。セプテーニグループでは、採用や人材育成において人事データの活用を推進しているそう。ここでは、人事データベースを活用したHRテクノロジーの取り組みについて、実際の活用方法をお話しいただきました。
新卒採用のアセスメントにAIを活用し、入社後のパフォーマンスを予測する
セプテーニグループでは現在、学生の「個性」「取り巻く環境」「行動」といった情報から、入社後のパフォーマンスを予測することが可能になっています。
具体的には、パーソナリティ診断(株式会社ヒューマンロジック研究所提供のFFS診断)やエントリー時のアンケート、過去の行動履歴など約100の項目から過去の社員のパフォーマンスを参照して、応募者の活躍度の予測をおこなっています。
また、予測の確度をより高めていくために、入社後の配置や異動の意思決定にもデータを活用しています。
採用活動におけるデータ活用のメリットとして、面接などによる「人の定性的な判断」を最小限に留めることができ、人事担当の生産性が高まったことがあると思います。
普通なら人事が面接によっておこなう見極めの仕事の大部分をAIに任せることで、その分を会社理解や採用広報、マーケティングなどの時間に充てることができています。
配置や異動についても同様に、現在のHRテクノロジーを活用した組織運用が整い始めてから、人事も現場も生産性が格段に上がったように思います。
セプテーニグループでは、地方の優秀な学生にアプローチするため、学生の負荷を最小限に抑えた「オンライン・リクルーティング」にも力を入れているとのこと。
内々定までのプロセスを全てオンラインで完結できる仕組みのようです。活躍が見込める人材の全てが、直接会える場所にいるとは限りません。遠方の優秀層にもしっかり出会いにいく、かつ効率的に採用を進めるには、手段を工夫することも大切です。
リソース配分や工数の管理も採用活動の大事なポイント。定量判断できる部分は機械に任せる最新の取り組みからは、プロセスを効率化した分で生まれた人的リソースを、何に使うかが問われる時代の訪れも感じられました。
会場Q&A
採用担当以外が非協力的な場合、どのように巻き込むと効果的ですか?
あまりに非協力的な場合、「巻き込まない」のもひとつの選択肢です。いやいや感は面接で相手に見抜かれますし、採用プロセス全体が改善されることもありません。
プレイヤーを巻き込むのが厳しいときは、「採用に協力的なデザイナーやエンジニア」をトップダウンで採用しにいかないと組織をスケールできない状況がずっと続きます。
スクラム採用は新しい風が入りづらい・似たタイプの人しか入らないというデメリットがあると聞きます。施策を進めるにあたって気をつけるポイントはありますか?
スクラム採用は万能薬ではなく、事業フェーズや組織モデルによって有効性が変わってきます。一例ですが、多様なメンバーを集めたいときより、阿吽の呼吸で仕事ができるような仲間を集めたいときにスクラム採用という手段が特に効果を発揮すると考えています。目的に立ち返ることが大事ですね。
デザイナーを採用したいけれど、デザイナーがまだ社内にいない場合どのようなスクラムができるでしょうか?
会社にとって初めてのデザイナーの場合、ビジョンやミッションに共感した上で、経営者の意図を汲み取ったり対等に会話したりできるような、ある程度の経験を持った人材が必要です。
ですからまずは経営者とスクラムを組んで、ビジュアライズに長けているだけではなく企業価値の向上にまで関与してくれる、最高の1名を探してください。
ただもしも経営陣がデザイナーの価値を理解していない場合は、“デザインの力で企業価値をあげていける“ということを認識してもらうことが一歩目になるパターンが多いです。
AIでデザイナーやエンジニアの成長も促進できるのでしょうか?
人事データを活用した人材育成では、配属においても個性と環境(配属先のチームとの相性)の組み合わせを最適化しています。
職種は問わず、例えば個性の似た上司と部下をチームにすることで、個性の異なる上司と部下のチームよりは部下の成長が促進されるという結果が出ています。
ただ、デザイナーやエンジニアなど専門性の高い職種においては、個性と環境のマッチだけではなく、ジョブスキルをしっかり定義し、ジョブとのマッチングの精度も高めていく必要があると思っています。
おわりに
事業部やチームの垣根を越えて共に採用へ取り組む「スクラム採用」。組織づくりに全社で取り組む時間を通し、自社や他職種についての理解が深まる効果も期待できそうです。成功事例からは、コーポレート部門の在り方や、採用とブランディングとの関わりも学べました。
採用は組織の未来につながる重要なミッション。働き方や求職者の思考も多様化する今日、新しい仲間との出会いを逃さないよう、組織づくりについて自社メンバーの考えを共有する機会をつくりたいと思えたセミナーでした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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