「ワークショップ」と聞いて、どんなものを思い浮かべますか?
ホワイトボード一面に貼られたポストイット意識の高い人たちが集まる謎のミーティング?いえいえ、本来そうではありません。
今回お話を伺ったのは、さまざまな企業やイベントにて、数多くのワークショップを実施されている栄前田勝太郎(エイマエダカツタロウ)さん。
ワークショップって何のためにやるんですか?準備が面倒じゃないですか?などの質問に、優しく丁寧に答えてくださいました。

ワークショップに興味はあるけど、よくわからない!
会社でやりたいのに、上司がやらせてくれない!
会社の組織づくりに問題があるから何とかしたい……!
という方は、ぜひご覧ください!

栄前田勝太郎/有限会社リズムタイプ 代表取締役/ディレクター
大学で演劇を学び、珈琲屋で修行。その後マルチメディアの世界へ。映像制作、Web制作会社を経て2002年にフリーランスのディレクターとして独立。UI設計を含めたプロダクトサービスのディレクションなどを行う。2005年にリズムタイプを設立し、現在は企業内のチームビルディングにも携わる。(Twitternote

ワークショップは「共に考え共に創る、共創・協創の場」

ー栄前田さんのこれまでと現在の、お仕事内容を教えてください。

まず起業してからは、企業のコーポレートやIRのWebサイトを受託制作する仕事を中心に、Web技術を利用したUI設計/デザインを中心に活動していました。その後グループウェア(組織内部での共有・コミュニケーション用ツール)の開発を自社で行うようになり、サイボウズさんなどの事業会社からご相談いただくようになりました。
そしてスタートアップやベンチャーのサービス開発に携わるようになり、プロジェクトを進めるにあたってチームで動くことが増えるうちに、チームビルディングも支援するようになってきました。

現在は弊社で何かプロダクトをつくるのではなく、プロジェクトやサービスのゴールまでの道筋を、クライアントと一緒につくり上げるようなことをやっています。
つまりは、成果物ではなくプロセスにコミットすること。
発注いただいたものについて、こちらで要件を整理してつくりあげても、そのプロセスは発注者の方々にとって資産になっていないことが多いと思います。知見が貯まらない
ですので、「本当に求めている答えを持っているのはあなた方なので、その答えを一緒に考えましょう!そのために伴走します。」というスタンスなんです。なかなかこのスタンスの価値を伝えられていないのですが(笑)。

ーそこからなぜワークショップを行うようになっていったのでしょうか?

企業からワークショップをお願いされているというよりは、事業のコンサルティングなどを請け負っていると、「グロースハックをしたいけど、どうしたら良いかわからない」のような相談を受けるんです。
そこを紐解いていくと、実は必要なのはグロースハックの手法ではなく、「チームの育成」や「チームビルディング」だとわかることがあります。
そしてその目的達成のために、ワークショップを用いることがあるのです。

ーなるほど。そもそもワークショップとはどういうものなんですか?

僕の考えはここにもまとめてありますが、一般的な言葉で言うと、複数人の思考と視点を、対話や議論をする中で深めていく場。「共に考え共に創る、共創・協創の場」だと思っています。

僕がいつも言うのは、ファシリテーターも含めて誰かが教える・教わる場ではなく、一緒に考える場だということ。明確な正解を導き出くのではなく、参加者が納得解を得たり、対話を通して気づきやアイデアを生み出したりする場です。
だからこそワークショップのプログラムをデザインする際には、参加者が自由に考え意見を述べることができるような余白と場づくりを大切にしています。

ーセミナーとはどう違うんでしょうか?

セミナーは授業に近いものだと考えています。先生のような「教える」役割の人が、持っている知識を伝える。そして伝えたものを参加者が参加者自身にインプットするように「教わる」場です。
参加者や目的によってはもちろん、セミナーを行うことが向いている場合もあります。

一方でワークショップは、答えがあるわけではなく、成功も失敗もありません
自分だけで考えるのではなく、グループの中で対話をして「自分ではそう思わなかったけど、そうも考えられるんだ」のように、ひとりでは辿りつけない視点に気が付いたり、発見を導き出すことができる場です。
ただ伝えたい情報があるだけではなく、一緒に考えたい、参加者自身に気づいてほしいという場合は、ワークショップが向いていると思います。

企業から「セミナーをやってください」と相談された場合に、「(内容的に)ワークショップのほうが良いのでは?」と提案することもあります。
セミナーで知識だけ取り入れても、それを実務に結びつけて実行できるかと言われると、難しいこともありますよね
知り得た知識を実務においてどのように生かすかを自ら考えるために、ワークショップは、学んだことを実務に転換する機会として考えると良いと思います。

上司を巻き込めないなら、無許可でやってみるのもアリ

ーワークショップにはどのようなものがあるんですか?

僕がよく開催しているのは、組織やチームにおける「対話」を目的としたものです。参加者同士で対話するための問いと場をつくって、ファシリテーターは火付け役をしたらだんだんと存在感を消していく。あとはその場にいる人同士が自然と進めていくイメージです。

他にはアイデア創発系のものや、課題解決型のもの、子ども向けのものも。
課題解決型のものだと例えば、部署やチームで課題と思っていることを参加者全員で書き出してみて、それを共有してみる。そうすることで「自分が思っていたこと」と他の人との違いが可視化される場合もあります。そしてその課題の原因を探っていくことで解決の方法を探ることができるようになるかもしれません。
ここで「自分が思っていたこと」が思い込みであったことに気が付くこともあるでしょう。

一般化すると、ここにおいて重要なのは「思考の枠組みを外す」こと。
例えば企業において業務改善を考えるときに、“企業の体制や思考”という枠をずらして考えてみる。そうすると、新しい方法が見つかるんじゃないかと。
実際にそれを行うには、自分たちで考える場所と時間が必要ですし、日常の業務から少し離れる必要があるかと思います。だから、ワークショップという手法を取り入れてみてはどうかと思うのです。

ーチームビルディングで用いられることも多いワークショップですが、組織で行うことによってどんな効果があるんでしょうか?

組織をデザインするために、ワークショップは有効だと思います。特に、コミュニケーションに課題を持つ組織。
組織を良くするためには、どうすれば?というときには、ワークショップという場を設けて、みんなで考える機会を持つことをおすすめします。

その際にぜひお願いしたいのは、組織を変革するためのワークショップを行う際に、経営層・マネージャー層に入ってもらうこと。
現場がいくらワークショップを実施し成果を感じても、ボトムアップだけで社内に浸透させるのには限界がありますから。

ーしかしそもそも、マネージャー層を巻き込むこと自体が課題ということもありませんか?

それはよく聞きますね。
ワークショップを導入するにあたって、もちろん経営層やマネージャー層に対して「これをやったらどうなるか?」を明確にして認めてもらうことができれば良いのですが、その成果を保証することは難しいと思います。
そういった場合には

  1. 社外の人を巻き込んで協力してもらう、連れてくる
  2. 別部署のマネージャーを協力者として巻き込む
  3. ゲリラ的に業務の中でやってしまう

という方法があります。
1はまず、外部の方と一緒にイベントを開催するなど新しいことを初めてみて、経営層・マネージャー層の関心をひくというものです。
2では、自分の上司に理解されなくとも、別部署において自分の上司と同格の人を巻き込んでみる。まわりから囲い込むような形で、動いてみることです。
それも難しければ、いっそ前振りなしに業務の中でやってしまおうというのが3です。

例えばですが、打ち合わせの時間の中にいつもとは違ったワークショップ的な要素を盛り込むというところから始めてみてもいいのではないかと思います。それによって参加者にワークショップの必要性を実感してもらうことができれば、先に繋げることができるかもしれません。

会社組織では特に、新しいことに対して身構える人が多いので、許可が取れなくて止まってしまうこともあると思います。だから、業務の中でやってしまって結果的に「良いじゃん」と思わせることも時には必要かもしれません。
実際、ワークショップを行うにあたって最も難しいのは、実行する場をつくることだと思います。
ツールの導入でもそうですが、やってしまってから起こった良い結果を共有して、話を進めるのはかなり効果的だと思います。

結果がモヤモヤでも良い。対話の機会を設けることが重要

ー簡単に実践できるワークショップはありますか?

プロジェクトの振り返りをするときに、ワークショップを取り入れてみると良いですね。「これできなかったよね」のように振り返りをすると、どうしてもネガティブな話になってしまい、先につながりません。
そうではなくて、今のプロジェクトや部署、会社の理想的な未来を考え、それに向けて1年後や3年後にどうなっているかを考える。その理想的な未来のために何をすれば良いのか?をプロジェクトメンバーみんなで一緒に考える。
「未来の」「理想の」は現実の自分と遠いので、考えるのが楽しいと思います

ーでもワークショップってルールや準備が多くて、ちょっと面倒くさそうなイメージもあります……。

いえいえ、ワークショップに「こうしなきゃいけない」なんて決まりはありません
使う道具もテーマも自由。大切なのは目的と、参加者みんなで考えるということです。目に見える成果物ではなくて、そこで何を得るのか?ということ。

例えば、何かのコンセプトを決めるときにモヤッとしてしまったら。ワークショップというまでではなくとも、「ちょっとやり方を変えてみません?」と付箋やレゴブロックといったツールを使ってみる。または打ち合わせの内容をホワイトボードに可視化してみる。そういったことで、場が少し変わるんですよ。

ワークショップをやった結果、得たものがモヤモヤとしていても良いのです。行う前の自分では感じなかった違和感をもって、その違和感をどうしたいのか?を大切にしてください

ーデザイナーとノンデザイナーの間で、コミュニケーションが足りずにプロジェクトがうまくいかないことが多くあると思います。両者をつなぐようなワークショップはありますか?

以前実践したのは、課題発見のワークショップですね。クリエイティブチームとエンジニアチームでコミュニケーションがなく、それをどうつなげるかという問題がありました。
そこで、いま感じている課題を発見をするワークを両チームで別々に行い、その後にすり合わせをしたんです。すると、お互いが持っている課題感が全然違いました。課題が何に起因するかはバラバラ。そこでまずは、両チームの課題を知ることが必要だとお互いにわかりました。

このワークは比較的容易に実施できるものですが、その際に注意すべき点は

  • 参加者がネガティブにならないように留意する
  • 課題の前後関係を共有する
  • 心理的安全性を確保する

ということ。
まずは課題を共有する際に、お互いにネガティブなダメ出しにならないように気をつけます。
そして課題を説明する際は顔を合わせて、どうしてそう思うかの前後関係をしっかりと共有します。
さらに、何でも言える安心で安全な場づくりをすることで「私もそう思っていました!」と普段言えなかった言葉が言えるようになります。

ーそういったワークショップって、盛り上がるものですか?

ワークショップは、大抵の場合盛り上がります。ただ、ワークショップが終わるとすぐに熱が冷めてしまいがちです。
浸かっているときは気持ち良いけど、あがると元に戻る「ワークショップ温泉」なんて揶揄されることもあります(笑)。
ですから単発で行うのではなく、習慣化することをおすすめしています。定期的にそういった場を持つことで、普段の打ち合わせへの参加の仕方や、思考が変わってくると思います。
また、ワークショップの終わりにきちんとふりかえりを行い、次のアクションを設定すること。そしてそのアクションが実行されたかどうかを確認するところから、始めてもよいでしょう。

ワークショップに使用する道具を紹介してくれる栄前田さん

ー栄前田さんはなぜ、ワークショップを推進されているんでしょうか?

僕は組織にはもっと「対話」が必要だと考えています。報告や議論ではなく、対話です。
現在ビジネス組織ではものごとのスピードがとても速くなっていて、「ペルソナをつくって、カスタマージャーニーをつくって、テストをする」のように定番の進め方になっていることがありますよね。
それはもちろん必要なことではあるのですが、それとは別に、立ち止まってチームメンバーで対話する。例えば、これから行おうとしている施策や新機能開発について「この施策は何のために行うのだっけ?」「この施策は本当に必要なのか?」といった対話の機会を設けることが必要なんじゃないかなと思っていて。
そのためにワークショップとして実践していることもあります。

ミーティングをやっても、言いたいことを言えない人は多いですよね。でも、ワークショップは何でも言って良い場。参加者が誰でも自然に意見を出せて、他の人も否定をせずに、「Yes, and…」と意見を上乗せする場
最終的にはそういう場をつくることが、日常化していくと良いなと思っています。
ちょっとした立ち話をしている時に、相手の話を聞いてから、その話の内容を深掘りしてみる。普段のミーティングの場で自然と対話を意識して、相手の意見を否定せず許容する場をつくる。
そういう機会が増えていくと良いなと考えているんです。

だからワークショップは、僕がいないとできない特別なものではなく、一度参加した人たちが実務の場で実践していけるようになってくれると嬉しいですね。
企業内にそれぞれファシリテーターがいるような。ワークショップ的思考ができる人がどんどん増えてほしいと思っています。

<取材・執筆・撮影:シンドウサクラ>

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