▼西村さんの前回の記事
デザイン思考なくして採用は成功しない。いま、見直すべきクリエイター採用

人事に関わる方の中で、「採用ブランディング」という言葉を聞いたことがない人は、もういないのではないでしょうか。
より良い人材を採用するために、「採用ブランディング」を行うことの重要性はすでに知られていることと思います。

そもそもブランディングとは、「共感」と「信頼」によって価値を適切に伝えていくことです。
採用においては、自社が採用したいターゲットにとって、「共感」と「信頼」を持った上で、入社することが魅力的だと思ってもらうための活動が採用ブランディングです。

SNSやオウンドメディアで情報を発信することはもちろん、ロゴデザインや企業理念の構築、自社パンフレットの作成。これら全てが採用ブランディングと言えます。

その中で今回は特に「社内の情報発信を行う」という採用ブランディングについてお話しします。

採用ブランディングは、なぜ必要か

昔は、求人媒体か人材紹介に求人広告を掲載して応募を待つということが採用でした。しかし前回の記事でも述べたように、現在は就職・転職活動のそもそもの在り方が変化していることに加えて、企業側の需要過多。待つだけの採用では一向に良い人は採用できない状況に変わってきています。

▲図1

そんな状況の中、ぜひ採用したい人材のうち、ちょうど転職活動をしている人(図1, ①)だけを狙っていても採用は難しく、採用コストがどんどん高まるばかりです。
そもそも転職活動をしている人は10人に一人しかいない時代ですから、この層を狙っても狭い池の中で魚の奪い合いになってしまいます。
そうなると、転職活動の最中ではないけれど、ぜひ採用したい人たち(図1, ④)をターゲットにする必要があります。いますぐ転職を考えているわけではないが、「この会社であれば転職しても良いかな」と思ってもらうこと。そのために情報を継続的に発信し、接点を持ち続ける。
これがマーケティングにおけるリードナーチャリングをしていくということで、採用におけるこの営みが採用ブランディング、採用PRというものになります。

「何を」発信するのか

採用ブランディングを目的として情報発信をするには、「どこで」「何を」発信するのかを考える必要があります。「何を」発信するのかと言われると、「自社をいかによく見せようか?」と考えてしまいますよね。
一般的に採用ブランディングというと、外に向けて「うちは良い会社です!」とみせることが中心になりがちです。
しかし、ここから始めるケースはうまくいかないことが多い。それは、社内のメンバーが「いやいや、盛りすぎでしょ」と思ってしまって冷めてしまうからなんです。
どんなに良く見せようとしても、実態が伴っていないから突っ込まれた時にも答えられません。これが最も多い失敗パターンです。

実は採用ブランディングを始めようと思った時に、まずやるべきなのは「社員に向き合うこと」。
会社の魅力はなんなのか?ということは、実際に働いている社員がいちばんよく知っています。デザイナーならデザイナー、エンジニアならエンジニア。どこが良くて働き続けているのかを聞いて回るんです。
社員に向き合い、社員が何に価値を感じているのかをきちんとヒアリングしてネタづくりをする(Inner Communication)。それを外に発信して(Outer Communication)、さらにヒアリングして、ということをやり続ける必要があります。つまり採用ブランディングの前にやるべきなのは、Employer Brandingだということです。

その中で「もっとこうしてほしい!」という要望があがることもあると思います。そうしたら、それを制度化してしまって「こんなことはじめました!」と、コンテンツとして発信していくこともできます。

クリエイターが魅力を感じる会社とは

会社の魅力をただ聞いて回るだけではなく、社内の文化や制度を整え、アピールできるポイントを自ら創出していくことも必要です。私が「採用ブランディングをやりたいんです!」と相談を受けたら、まずは社員にヒアリングし、社内の文化や制度も整えて、いよいよ社外に発信していくというパターンが多いですね。

クリエイターにとって魅力的な制度と言えば、やはり「複業」や「リモートワーク」でしょう。現在リモートワークの普及率は大手も含めて3割程度、複業も同じくらいです。ただ、クリエイターが特に多いWebやIT企業での割合はもっと高い。
集中してものづくりをするクリエイターは、人によってはかどる環境も異なりますし、働く場所が選べるという状況があるだけでも、働きやすさは変わって来ます。さらに近年複業はスキルアップのために行う人も増えていますから、クリエイターと複業は親和性が高いのです。
クリエイターが自らの将来を考えた時に、複業OKとそうでないとでは、選ばれる可能性が変わってきます。

クリエイターにとっては、ハード面の環境を整えることも大切な要素のひとつ。PCが最新であったり、4Kディスプレイが支給されたりということを、気にしているクリエイターは思っているより多いです。
最新機器を支給していることはむしろ当然で、いうまでもないと思っている企業もあるかもしれません。そういった、気づいていないけれど実は大きな魅力になり得ることを発見するためにも、社員にヒアリングすることは非常に大切なんです

「どこで」発信するのか

発信すべき自社の魅力が整理できたら、その情報をさまざまなSNSやオウンドメディアがある中の、どこで発信するのかを考えます。
ここで難しいのは、転職を今したいと思っている顕在層(図1, ①)には採用媒体を使ってすぐにアピールできても、そうではない潜在層(図1, ④)とどうやって接点を持つかということ。

この場合は、非採用ツールを用いるしかありません。FacebookやTwitterなどのSNS、noteやオウンドメディアなど。仕事とは関係のない日々の導線の中で出会える、自社のコンテンツを用意することです。これは採用担当と、PRや広報の担当とが協力して行うことが重要です。

もちろん、採用系のツールやメディアを用いたブランディングもやるに越したことはありません。ただその場合、発信した記事の内容が良くても、読んだ人から「どうせ採用目的で良いこと言ってるんでしょ?」と思われたり、シェアしようとしても「転職したいんだと思われてしまうかも」という懸念が働いたりすると、どうしても広まりにくくなってしまいます。
そのため、潜在層にも自社を知ってもらいアプローチするという目的では、採用の色が付いていないメディアを選ぶのが良いと考えます。
その上でオウンドメディアの場合は、グーグルアナリティクスなどを用いて詳細に分析ができるため、PDCAを回して改善していくにはやりやすいと思います。しかし、拡散力ではやはり開かれたSNSやnoteのようなメディアの方が向いていると言えます。

採用系・そうでないに関わらず、どのメディアで発信するにしても大切なのは、発信する内容と、しっかりとやりきるということです。SNSやオウンドメディアでの発信は、必ずしも採用に直結する内容でなくても構いません。日頃からコンテンツを発信し、その考え方や取り組み内容、姿勢をアピールします。
魅力的なコンテンツを発信していれば、見てくれる人が増え、共感する人が現れ、その人がいざ転職となった時に想起してもらえるようになります。

オフラインでの採用ブランディング

情報をオンラインで発信するだけでなく、オフラインの場で潜在層に出会う機会を増やすことも非常に重要です。優秀な潜在層に出会うには、積極的にイベントに参加したり、登壇したりという方法があります。
例えばイベントを自社で開催、または社員があるイベントに登壇するとします。まずはそこで有意義な話をすることで、学びに来た人に良い印象を持ってもらう。さらに話の中で自社のスキルの高さをわかってもらい、「この人と働きたい」と思ってもらいます。
そうして興味づけすることを続けて行くと、いざ「転職しよう」と思った時の選択肢に浮かんでくるようになります。

もちろんイベントに参加するだけでも、そこで優秀な人材と出会うことができるかもしれません。「ぜひいつか入社してほしい!」と思った人とは個別に関係を保ち続け、相手の転職スイッチが入った際に「オフィスに一度来てみてください」と採用につなげることもできます。

魅力的な会社では、社員が採用を「自分ごと化」する

待ちの採用が全てだったとき、採用担当にはトップ営業マンが向いていると言われていました。それは、面接という短い時間で相手を口説くため。戦略・戦術・戦闘と3つのパートがあるとすると、戦闘の部分だけができればよかったんです。
しかし現在は、戦略・戦術の部分がより重要になってきており、マーケティングの観点を取り入れる必要が出てきました。各部署の最も優秀な人を集めて行うことが理想的ですが、実際にはそれぞれのスペシャリストに「自分ごと化」してもらい、その人たちを巻き込むことが大切です。

「自分ごと化」をしてもらうには、社員に会社を好きになってもらわなければなりません。そのためにはやはり、魅力的な会社になること。
会社が魅力的になり、社員が採用を「自分ごと化」し、積極的に採用に関わるようになる。そうなれば、自然とリファラル採用も活性化します

大切なのは、やりきること

ダイレクトリクルーティングのように、特定の人をスカウトするのは「狩猟型」の採用です。短期間で狙いを定めて採用できるけれど、次々に一から狩りをしなければなりません。
それに比べて、採用ブランディングは「農耕型」です。はじめたとしても、効果が目に見えるのに時間がかかります。しかし土壌を改良して耕し、種をまき、コツコツと育てて行くことをやめなければ、いつか収穫できます。
最初の収穫までに苦労は多いですが、一度うまく行く状態を作れば、あとはそんなに手を加えなくても勝手に収穫できるようになってくる。大切なのは、継続してやりきることなんです。