クリエイター需要過多の中、採用がなかなかうまくいかない、応募が少ないと悩んではいませんか?ビジネス部デザイン課では「採用×デザイン思考」をテーマとしてセミナーやイベントを開催しています。

今回は、2019年1月17日(木)に行われたBasecamp CEO 坪田朋さんとHRマーケター/複業研究家 西村創一朗さんのトークセッション<デザイン思考なくして採用は成功しない。いま、見直すべきクリエイター採用>のレポートをお届けします。

デザイン組織づくりやマネジメントを数多く実践し、現在はスタートアップのデザイン支援にも注力する坪田さん。採用活動にデザイン思考を取り入れるとはどういうことか?採用の考え方や人事と現場の協業についてトークを振り返りながら考えます。

坪田朋 株式会社Basecamp 代表取締役
UI/UXデザイン領域を専門とするデザイン組織の立ち上げを多く手掛ける。BCG Digital Venturesにてデザインシンキングを使って立ち上げた新規事業開発業務「Onedot」にCCOで参画しつつ、兼業でデザインファーム「Basecamp」を立ち上げてスタートアップの事業創出を支援。
西村創一朗(モデレーター)
株式会社HARES 代表取締役/HR マーケター/複業研究家

新卒でリクルートキャリアに入社後、法人営業・新規事業開発・人事採用を歴任。本業の傍ら2015年に株式会社HARESを創業し、2017年に独立。HRテクノロジー・HRマーケティングの専門家として企業のコンサルティングを行う。講演・セミナー実績多数。

まずはじめに、ディー・エヌ・エーでのデザイン組織立ち上げやマネジメントを中心として、坪田さんのこれまでの取り組みの概略をまとめて紹介していただきました。

デザイン組織づくりで実践していたこと

※こちらのプレゼン資料は、記事の最後からダウンロードしていただけます!

デザイン組織のつくりかた

今日は「いま、見直すべきクリエイター採用」がテーマということで、デザイナー目線からの組織づくりと、これまでに採用で実践してきたことを中心にお話ししていこうと思います。
よくデザイン組織づくりについて相談をいただくのですが、実際にお話を聞いたり世の中の会社を見たりしていて思うのは、エンジニア組織に比べると「デザイン組織が立ち上がりきっていない会社がまだまだ多い」ということです。また、デザイナーの採用方法にも迷っている現場が多い印象がありますね。

ディー・エヌ・エーでは、デザイナー(プレイヤーの立場)として採用活動をしながら、クリエイターの評価制度や独立したデザイン組織づくり、人事制度を整えるマネジメントにも尽力していました。それはただ人事の採用手法に口出しするのではなく、経営や採用に関わるリソース(予算、権限、人事の担当者など)の管理を、会社の中で経営層からデザイン組織に委譲できたことで実現しました。

組織をつくる中で特に大きな施策となったのは、「正社員」に限らずバイト・業務委託・特定派遣など関わる人の幅を広げるなど、採用に限定しないアサインを可能にした体制をつくったことだと思います。これは、経営の中でデザイン組織の価値を上げながら、チームの責任と採用の裁量権が自分にある状態をつくれたからできたことでもありますね。

雇用形態にこだわらず「一緒につくる人や外部会社」をパートナーとして見込みのある人をチームに入れていく「仲間集め」のスタイルは、従来的な採用活動にとらわれない新しい組織づくりです。

直近のデザイナー採用市場感覚について

市場としてデザイナーの採用自体はかなり盛り上がっていると思います。しかし、実際は働き方の変化(フリーランス、副業、業務委託など)もあって「正社員確保」のハードルは上がっているのが現状です。優秀人材も規模を問わず奪い合いの状態がありますね。

最近では組織規模よりも「何をつくっている企業なのか?そこで誰と一緒につくれるのか?」を判断して入社を考えるクリエイターも多いです。採用方法としては「リファラル採用」も増えていますね。その流れに対応するためにも、人事や広報だけでなく現場とも協力して、企業の文化、ビジョン、ブランドを発信できる体制をつくることは重要です。

副業やフリーランスとして入社し、一緒に仕事をする中で「この会社でもっと働きたい」と考えて正社員になるケースもどんどん多くなっています。組織への入りやすさ、安心して組織に入っていける仕事のしやすさが「採用の仕組みそのもの」につながることもあるということです。またデザイナーの場合はキャリアの実績を積める環境もポイントなので、「つくったものを世の中にすぐ出せる体制」は会社選びの大きなポイントになります。

クリエイター採用のヒント

デザイナーの組織構成、役割の変化

組織体制で見ると、大規模組織も最近はエンジニアの数に対するデザイナーの数(割合)も徐々に多くなっています。顧客の依頼にただ応えるのではなく、課題を解決するコンサル的な役割があったり、デザインドリブンで事業を進めたりする企業も増えてきているのではないでしょうか。その流れの中で、デザイナー自身がやりたいことや多様な視点の明確化をできているかは、ミスマッチの防止策としても注目すべき点だと思います。

組織規模として少数精鋭・初期状態のスタートアップであれば、サービスの立ち上げにエンジニアとデザイナーが1:1くらいのバランスもあり得ます。ビジネス、エンジニアリング主軸で突っ走るのではなく、サービスづくりもデザイナーの役割と考えて上流工程から事業に携わる組織づくりができるといいのではないでしょうか。

デザイナー採用は現場の巻き込みが肝

「この人と一緒に働きたい」と思う人に声をかけあえる流れをつくるためにも、「普段から発信する意識」を現場を巻き込んでもつことは大事です。例えば、参加した勉強会のイベントレポートを書いて発信することで、必要とする人材に「共感ポイント」を増やし、応募してもらえる可能性を増やすPULL型採用施策も有効だと思います。企業アカウントではなく、現場のプレイヤーが企業の魅力を発信することが重要です。また実際の応募にあたっては、採用プロセスの簡略化など負荷を減らす工夫も意識したいですね。

 

短期目線ではなく長期目線で「採用イベントではなく技術イベント」を定期開催して日頃の潜在ユーザーとエンゲージメントを高めるのも効果的です。

また、その過程での採用フローやミスマッチ防止策については

  • 採用試験の中で簡単な課題を用意する(スキル、制作スタイルの確認)
  • SNS運用(スキルやクリエイターの雰囲気がわかるものから直接スカウトの声をかける)
  • デザイナー自身が募集する(SNSなどダイレクトなやりとり、meetupイベント)

などがあります。

坪田氏と西村氏によるトークセッション

プレゼンに続いて、モデレーターである西村さんの視点から気になったポイントを中心にトークセッションが行われました。

 

西村さん
採用施策として「企業や働く人のブランドを高める」というお話がいくつかあったのですが、具体的にはどんな方法が魅力になると思いますか?
坪田さん
コーポレートサイト、世に出しているプロダクト、ノベルティなど、まず最初にユーザーとの接点(=クリエイティブ)を良いものにすることだと思います。同時に、

  • 応募や採用にある負荷を下げる(応募フォームの手軽さ、選考フローの簡略化など)
  • 中長期的なブランディング(メッセージ、コピーの見直しなど)

も意識できるといいのではないでしょうか。

西村さん
発信について伺いたいのですが、企業イベントやミートアップをやればそれは必ず魅力になるのでしょうか?
坪田さん
正直な所、今からやるのは少し飽和状態な印象もあります。いくつか立ち上げ・運営をしていて感じるのは、

  • 会場提供など「場」をつくるスポンサードなのか
  • 内容やイベント全体をつくる主催なのか

によってもアピールポイントが変わるというところですね。また、これは全ての施策に共通して言えることですが、ただデザイナーを表に出して最終的に採用感が全面に出てしまうと相手には引かれてしまうことを覚えておいて欲しいです

西村さん
では、人事が現場のデザイナーを巻き込むためのポイントを詳しくお願いします。
坪田さん
職種の越境(人事から歩み寄る)意識、ということですよね。面接に限らず「人事」感を丸出しにしないことでしょうか。採用前提ではない場合でも、フラットに興味や話したいことのコアを同じ目線で引き出せる環境(服装、座席の距離など)をつくるといいのかなと思います。
西村さん
実際の採用に関わるようになって何か感じたことはありましたか?
坪田さん
まず、人事の感覚と現場が必要とする要件理解のギャップ改善は必須だと思いました。テキストだけの履歴書・職務経歴書で得られる情報は限られてしまうので、どんな人か・会いたい人なのかの判断は難しいです。またポートフォリオありきで進める分、作品の重さはそれらの書類以上に大きいことを強く伝えました。
西村さん
そのギャップを埋めるために、どんなことを実践されていたのでしょうか?
坪田さん
採用リソースを新卒や中途で切り分けずに、要件と重要度を整理して獲得する体制に変更するなど、仕組みづくりを実践していました。複数の事業部で予算を共有して使い方の自由度を上げたり、全社的にデザイン組織を可視化する仕組みをつくったり。ただそれがスムーズに可能だったのは、自分で責任をとって動ける環境(裁量権)を先に確立していた部分も大きかったと思います。
西村さん
続いて、ブランディングについて伺います。リファラル採用やインナーブランディングの話がありましたが「友達を誘いたくなるデザイン組織の特徴」はなんでしょうか?
坪田さん
自分が働いている場所の価値(自慢したくなる・話したくなるような良いこと)を上げる工夫や施策を惜しまないことですね。会社の知らないところでネットワークを持っているデザイナーは案外多いので、ノベルティなど気軽に会社を発信できるツールをつくっておくと、人脈から紹介に繋がる可能性を単純に上げられると思います。
西村さん
ノベルティづくりやブランディングにかかる予算やリソースはどう工夫しますか?
坪田さん
採用をブランディングの目的に含めるのであれば、エージェント費用を原資に投資するのも策です。ただし安いものをつくっても相手の目にはよく映らないので、何事もクオリティには注意しましょう
西村さん
リファラル採用の場合はどんなアピール手段があると思いますか?
坪田さん
社長や経営層(=直接関わる人・声の大きい人)から人を集めるのもアリです。企業としての発信より個人ブランドとしての発信に強さがある時代なので、事業を率いる人から直接話を聞けるメリットは大きいと思います。

参加者からの質問

参加者
長期的に候補者とコミニケーションを持ち続ける手法で、効果が高いと思うものはなんですか?
坪田さん
定期的な連絡やSNSのチェックなど、相手が採用のフェーズになっていなくても「この人は!」という人がいたら基本的に追い続けていました。連絡だけでなく定期的に開催できるイベントなどがあると、お互いの情報交換の流れを自然につくることができた印象もあります。
参加者
フリーランスや業務委託の方の採用単価が最適値がどうかは、どのように判断したらよいでしょうか?(社員だと採用単価がわかりやすいのですが)
坪田さん
採用コスト自体は、社員の3倍が業務委託の単価と考えて見積もるのが健全だと思います。「まだ業務委託だから……」と足元を見て安くした結果、コミュニケーションコストが下がって「良い人」が取れなくなっては元も子もありません。「良い人を適正価格で取る」意識が大事です
参加者
フリーでも稼げる時代に、デザイナーとして会社に属するメリットは何だと思いますか?
坪田さん
実際のフリーランスたちの動きとして「一人でできることには限度がある」という限界を感じる人も増えています。そこに対して「組織でしかできないことのメリット・事業でしかでき得ない魅力」を発信するのは効果があると思いますね。業務委託やフリーランスの方とは「一緒に長く仕事をすること」で、魅力や会社自体の評価を上げていく。そこから社員になってもらうことを期待する、中長期的な考え方もOKです。

また実績を積み上げたい人が多いクリエイターにとって、会社側の「副業OK」はかなり大きなポイントです。その場合、会社という環境が「様々なことの挑戦に背中を押している」という価値づくりにまで持っていけるとより良いと思います。

参加者
正社員である必要性とパートナーである方がいい、という部分の判断基準は?
坪田さん
正直、そこは人それぞれの価値観や裁量権次第な印象です。例えば、自分の場合はゼロ→イチのフェーズが得意なので、イチになったら次のゼロに向かうスタイルが軸にあります。同じタイプの人であれば、一定期間を定めて転職し続けるよりも、フリーランスとして実績や責任感を持って挑戦していくタイプの方が信用や強みにつながると考える人が多いかもしれません。
参加者
デザイナーのトップが気難しく、新しい人をどんどん却下していってしまうのですが…どうしたらいいでしょうか?
坪田さん
書類選考で却下している場合、単純に目利き力の可能性もありますが、自分より優秀そうな人を弾いている場合もあります(笑)。「プレイヤーとして優秀な人」と「マネジメントで優秀な人」は必ずしも一緒じゃないので、そこで失敗するケースはたくさんある気がしますね。また、マネジメント優先の立場についた方が給料は上がるのですが、プレイヤーで居られる時間が少なくなることを嫌がる人もいます。アサイン担当や組織体制は、各クリエイターがどのようなポジションで能力を発揮したいか、単純な年功序列や評価順列以外にも工夫が考えられるといいと思います。

会場からの質疑応答では、予算の考え方やデザイナーとのコミュニケーションなど、実際の企業が抱えるモヤモヤがリアルな形で質問になっていました。採用の視点を含めたmeetupなどのイベントも増えており、それらの企画を機に会社全体で人事と現場の組織としての感覚を共有しあえる可能性も感じられますね。

最後に

デザイナー視点での採用ノウハウだけではなく、人事と協業した採用活動やリソース意識についてなど、学ぶ所の多い内容でした。働き方が自由になり、雇用形態にとらわれない人も増える中で、企業や組織の魅力をクリエイターに伝えるヒントが多く紹介されていました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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