デザイン思考がなくても、採用できた時代があった
「デザイン思考」という言葉がデザイン以外の領域にも徐々に使われるようになってきました。僕が考える「デザイン思考」とは、「想像力を働かせて問題解決をする技法」です。
いかに相手の立場に立って想像して、「こうだったら嬉しいな」「こうだったら不快だな」ということを考え抜いて、クリエイティブに解決するか。それをわかりやすく考えるための概念・ツールが、ユーザーエクスペリエンス(UX)であったり、カスタマージャーニーマップだったり。これらは、想像力を働かせるための補助線的ツールだと考えています。
現在の世の中の採用のほとんどは、デザイン思考が足りなさすぎる。そしてデザイン思考のない採用手法で、優秀な人材の採用はできない。僕はそう思っています。
昔は、求職者と企業がつながる方法が非常に限定的でした。転職しようと思ったら、求人サイトやエージェントに登録するしかなかった。だから、そこに求人広告を掲載して待っていれば、応募は自然と集まって来たんです。
企業が「募集しています!」という手段はあっても、求職者が「こんなことができます!仕事を探しています!」という手段はなかった。
求職者は限られた椅子を奪い合うしかなく、面接官は応募してきた人をふるいにかけて、ジャッジすることが仕事でした。
しかし現在はSNSでみんなが横につながっていますし、勉強会やイベント、コミュニティなどで、人と企業も簡単につながれる時代になりました。
そうなると、優秀な人ほど就職媒体を使わずに就職や転職が可能です。
企業の採用が難しくなっている理由は、求人倍率が上がっていること以外に、転職手法そのものが変化しているということがあるんです。
もちろんそうは言っても、イベントやコミュニティでの出会いで転職につながるのは、突出してレベルの高い人達です。
そこまでのレベルはなくても、スキルと条件が合えば企業と求職者がマッチできるのが、近年増えてきた「ViViViT」や「ビズリーチ」「Wantedly」などのダイレクトリクルーティングサービスです。
ダイレクトリクルーティングやリファラル採用も含めて、採用手法は受動から能動に変化しつつあります。
昔の採用担当は、いかに大勢の応募者を集めて、いかにさばくかということを重視していました。しかし現在は、1000人集めて10人採用するのではなく、10人集めて10人採用することを目指す、クリエイティブなやり方にシフトしています。
デザイン思考を取り入れた採用とは?
では具体的に、デザイン思考を取り入れた採用とはどういったものなのでしょうか。
全体を通して言えるのは、採用ターゲットをしっかり観察するということ。
通常、商品を扱う場合は顧客(ユーザー)が何に困っていて、どんな行動をしているのかを観察することから始まりますよね。
それを採用に当てはめると、そもそも採用したい人がどんなペルソナなのか、そのペルソナは何に悩んでいて、どういうことを訴求してあげたら興味を持ってくれるのかを考えること。
採用には「認知・興味」「応募」「選考」という段階があります。
そのフェーズごとで想像力を働かせて、いかに相手が選考に進みやすくなるか、意思決定しやすくなるかを考えるということです。
まず「認知・興味」の段階。企業のページを見て「うちはこんな企業です!」「求める人はこうです!」と言われても、その企業に入ることでターゲットのどんな問題が解決されるのか全然わからないですよね。
自社の魅力をただアピールするのではなくて、候補者にとってのメリットはなんだろう?と考えることが重要です。
その広報を行うチャネル(媒体)も目的によってさまざまにあります。
理想でいうとトリプルメディアマーケティングといって、NewsPicksのジョブオファーなどのペイドメディア、自社の採用ページや自社ブログなどのオウンドメディア、SNSやWantedlyブログなどのアーンドメディアを、目的に応じて使い分けます。
次に「応募」の段階。ある程度情報を得てその企業に入りたいと思った場合に、応募するまでの導線はわかりやすいのかどうか。どこからエントリーすればいいのかわからないということもよくありますよね。
応募したいと思ったときに、どこにあるどのボタンを押せば応募ができるのか。それを整理するだけで、応募のハードルはぐっと下がります。
応募を経て「選考」へ進んだときにも、配慮すべき点は多くあります。
例えば、応募が来て面接を調整する際。「いくつかご提示ください」と言って候補者の手をわずらわせるよりも、こちらからいくつか提示して、選んでもらうというだけでも面接に進みやすくなると思います。
そして面接が決定したら、「当日は◯◯という者が担当します。◯◯の担当事業はこれで、◯◯に関するインタビュー記事はこれです。」と伝えておく。
候補者がそれを見てくれて、一定の情報がある状態で面接がスタートすれば、限られた時間をお互い有効に使うことができます。
いざ面接となった時にありがちなのは、候補者に対してすぐに「志望動機は?」「自己PRしてください」と聞いてしまうこと。
「ViViViT」や「Wantedly」などの媒体を経由すると、「話したい」「話をきいてみたい」でつながって面接になることがありますよね。
少し興味があってとりあえず話を聞きにきた候補者に、急にこのような質問をしてしまうのは、温度感に大きな差があります。
これはユーザーの心理状態を全く理解していない、デザイン思考がない典型です。
「弊社のどんな部分に興味を持って『話したい』ボタンを押していただいたんですか?」と尋ねたり、「まずは弊社について説明しますね」と言って魅力づけをしたりするのが正解の対応と言えるでしょう。
面接後は24時間以内に選考結果を送る、結果が出ないならせめてサンクスメールを送る。結果を何営業日以内に連絡するかを明記する。
このように、面接を受けた側の不安を取り除いてあげることも重要です。通常のビジネスでも、締め切りをセットで伝えるのは当たり前ですよね。
手前味噌になってしまいますが、僕が以前いたリクルートキャリアでは、デザイン思考を用いた採用が行われていたと思います。
例えば、当時新卒採用では入社2年目以降の社員は全員が面接官を行っていました。面接官向け説明会では「面接の最後5〜10分で、候補者に必ずフィードバックを行ってください」と言われ、面接官がその場でフィードバックするということを仕組み化しているんです。これは逆にいうと、それができるくらい濃い面接を行ってくださいということ。
候補者の原体験を聞いて、その人の強みや弱み、改善すべきことをフィードバックすることは、候補者にとっても嬉しい贈り物になり得ます。
そもそも重要なのはシンプルに、ユーザーエクスペリエンス(UX)、この場合キャンディデートエクスペリエンスをいかに高められるかが重要です。
採用不採用に関わらず、「応募して良かった」「面接に行って良かった」と思ってもらえるか。
不採用でもメリットがあることは、選考を受ける大きな動機になります。
クリエイター採用にこそデザイン思考が必要な理由
リクルートの例もあるように、デザイン思考を取り入れた採用は、クリエイターだからということは関係なく、全ての職種の採用において必要だと考えています。
クリエイターにはデザイン思考が必要で、セールスにはデザイン思考が必要でないかというとそうではない。
ただそうはいってもやはり、クリエイター採用にはデザイン思考が特に必要だという2つの理由があります。
1つ目は、そもそもの採用難易度。デザイナーやエンジニアを含めクリエイターは、現在ひとりの就職・転職希望者に対して、求人の数が非常に多い需要過多のマーケットになってきています。
そんな引く手数多のクリエイター達を座して待ち、面接で「志望動機は?」と一方的に聞いて、採用不採用をジャッジメントするのはナンセンスです。
どういう魅力をアピールしたら興味を持ってもらえるか?を考えることが必要ですし、そもそもアピールするだけでも不十分です。
候補者はどんなことを職場に求めていて、どんな仕事をやりたいと思っているのかを尋ねて、それをどうしたら自社で実現できるかを提案する。
その人が今いる企業や、既に内定を持っている企業よりも、自社に来るメリットがあると思ってもらわなければなりません。
2つ目は純粋に、クリエイターだからです。人間である以上誰しもUX(ユーザーエクスペリエンス)は大切にしているけれど、クリエイターはそこに対する感度がより鋭いですよね。
このオファーいけてないな。この求人広告のアイキャッチはダサい。など。
デザインはその裏側に思考が透けて見えるものなので、それを測れるクリエイターには、デザイン思考のない採用は見向きもされなくなるんです。
相手の立場に立ったコミュニケーションをとるということ
これらのことは、デザイン思考という言葉を使わなくても、相手のことを考えたコミュニケーションをするということで説明できます。
これからの採用では、企業側が候補者を選ぶだけではなく、お互いに選び選ばれる対等な関係だということを意識することが大切だと思います。
お互いに自己開示しあって、お互いが良いなと思って採用につながる。恋愛と同じで、これがあるべき姿です。大企業にありがちな、「サイレントお祈り」なんて論外。
人事がひとりしかいないなど、リソースの問題で難しいという意見もあるかもしれません。しかしそれは、それをやるオペレーションがつくれれば良いという話です。
サンクスメールであれば自動化もアウトソースもできますし、やらないというのは言い訳にしかなりません。
むしろリソースが足りないからこそ、デザイン思考を働かせて、どうやったら効率よく効果的な採用ができるかを考えるべきなんです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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