IT事業やプロダクト開発に限らず「Experience=体験」を軸とした言葉を聞く機会が増えてきました。例えば以下のようなもの。
- UX ( User Experience )……直訳すると「ユーザー体験」
プロダクトや事業を通してかかわるターゲットやユーザーの体験のこと。 - CX ( Customer Experience )……直訳すると「顧客体験」
直接かかわるユーザーだけでなく、業界や事業領域全体がかかえる体験やそのイメージ。 - CXO ( Chief Experience Officer )……直訳すると「最高顧客体験責任者」
デザインの考えとともに経営や組織づくりにも携わりながら、セクションを横断して体験づくりに向き合う。
トレンドワードやサービス開発の基本要素として、言葉だけはなんとなく知っている人も多いかもしれません。ただ、実際はどうビジネスにかかわるのか、デザイナーとどんなコミュニケーションを取れば「体験づくり」につながるのか、悩む方もいるのではないでしょうか。
今回は、その実践とも言える「UXデザイン」を一つの軸として、「体験」とビジネスとのかかわり合いのヒントを探っていきます。
体験をつくるとは?UXデザインの役割
「Experience=体験」は、ユーザー(顧客)がプロダクトやサービスに触れたその瞬間から忘れるその時までにかかわる、とても大切な要素です。そして実際のビジネスや事業において、「体験づくり」の実践となるのがUXデザイン(User Experience Design)です。
UXデザインは、目指したい体験に最適なかたちでユーザーを導くこと。そのために、事業やターゲットに対して実現すべきテーマや目的を設定し、施策を検討・実践していきます。
今ある事業の中で目の前のユーザーや課題と向き合うことはもちろん、新規事業においては「〇〇を□□する」という仮説を基とした、ビジョン策定やニーズの具現化もデザインと言えるでしょう。
また、そのかたちはビジュアルやコピーなど直感的に訴求力のあるものや、体験の過程で伝わるストーリーの組み立てなど、さまざまな表現があります。
UXデザイナーは「体験づくり」をクリエイティブやリサーチを通してかたちにしたり、実現のための仕組みをつくったりする役割を担います。
インタフェース(接点)となる部分へのかかわりはもちろん、事業やサービスの先にあるユーザー体験や感情の変化にかかる行動設計も大きな仕事。UXの領域に限らず、デザイナーの仕事とは単純に見た目を整えるだけにとどまりません。
体験とデザインがかかわりあう効果
ひとこと「体験をつくる」と言ってしまうのは簡単ですが、それはただ一方的にルールを押し付けたり、強引に行動を制限したりすることで達成していくのではありません。UXデザインのプロセスは、「伝えたいことを伝える」ための仮説検証から実装、相手のアクションに落とし込むまでを含めて取り組んでいきます。アウトプットも目指すべき体験とメディア次第でさまざまです。
これをビジネスの目線で見ると、「体験のデザイン」には事業やプロダクトを通して実現を目指す物事に責任がともないます。「感覚は人それぞれ」とリスクや目的の実現を成り行きに任せるのではなく、危険な要素を取り除いたり、不安や迷いのないよう改善したりするのもUXデザインの役割です。
その体験づくり自体が新しい価値観の形成やブランド力につながり、事業や組織において独自の強みが生まれるケースもあります。
「これを実現するには?」を意識することが大切
未知の体験や新しい物事をつくろうとする際には「周りがこうしているから合わせなければいけない」といった既成概念の壁にぶつかることもあるでしょう。UXデザインでは時として「当たり前」とされている前提を疑うことも必要です。目指すべき体験(まだ知りえてないこと)の実現には、さまざまな人と協業し、挑戦をしていく場面も多くあります。一方で、無謀なチャレンジに思えることが周囲を巻き込んだビジネス領域全体の発展につながり、新規性のある物事の先導者となる可能性も。
「体験」を重視して事業を進めるためには、一般的な「理論→実践」の流れやPDCAの起点にとらわれず、実践(PDCAで言えばDo)を先行し、その振り返りを理論化していくことも有効です。また、サービス開発などにおけるデザインの過程では、仮説→プロトタイプ(模型)の中心となる要素を「ビジュアル」ではなく「体験」にすると、実装や開発スピードの向上につながっていきます。
「体験」は開発や事業の先にある未知の存在でもあります。
つくりたい「体験」の実現に向けたプロセスや仮説を組み立てるためには、日々の生活でも「なぜこうなったのか?」「どうしてこうなっているのか?」と些細な行動のプロセスに注目したり、物事の仕組をリサーチしたりすることでヒントにつながることも。
「体験づくり」を協業するヒント
「体験づくり」は、かたちにする役割のデザイナーだけの仕事ではありません。事業としてかかわる全ての人が、目指すべきゴールを共有して理解し、協業していくことが大切です。
最後に、体験づくりを考える上での議論やプレゼンの他にコミュニケーションにつながるヒントやアイテムをいくつか紹介します。
カスタマージャーニーマップ
具体的な設定を持ったペルソナ(人物モデル)をつくり、ターゲットとなる人の一連の行動プロセスをまとめたもの。
体験のスタートからゴールまでの流れを共有することでデザインするべき解釈のズレを防ぎ、より明確な目標意識や提案につながることが期待されます。
アイデアソン・ハッカソン
どちらも短時間で新規性のあるアイディアを競うワークショップ。アイデアソンは1時間程度で企画~プレゼン、ハッカソンは半日ほどで実装も含めての提案を発表する場合が多いです。
人数や規模感に合わせてレクリエーションから経営合宿までさまざまな場面で開催できます。飛躍した発想のヒントを得ること、組織における立場や役職を超えたコミュニケーション施策としても有効です。
グラフィックレコーディング
議論や話し合いの場で、図解を用いてリアルタイムで内容を記録するもの。言葉と文字で完結しがちな場や議論を、グラフィックやふりかえりを加えながら整理します。
論点が可視化されていくことで、より明確なイメージを持ってアイディアやデザインの目的を共有できます。
UXデザインに限らず、実現したい物事の解像度を上げたり課題を解決したりすることは、特定の役割の人に全てを任せきる・決まったものをただ丸投げするのでは始まりません。各々が仕事に責任を持つことはもちろん、全員が一人のつくり手として意見を出し合える体制や、合意形成をスムーズにできる工夫も重要と言えるでしょう。
UXとセットで挙げられることも多いUI(User Interface)は、体験づくりにおいてユーザーが実際に認知して触れるものを指します(表面的にわかるビジュアルやレイアウト、ボタンやスイッチなど実際に動作として触れる存在も含む)。
UIに携わるデザイナーは、ユーザーが体験の中で操作するもの全てを、適切な印象や動作に導く役割を持っています。つくったものや目指すべき体験が誰かに認知されても、扱いが難しくストレスを与える存在になっては意味がありません。
体験づくりの中で、伝えたいことをきちんと伝えるためのバディのような関係として、UIとUXは深く結びついています。
おわりに
UXを軸に「体験」と「デザイン」のかかわりについて見ていくと、開発や事業の先にある新しい価値に触れられる可能性や、なんとなくでやり過ごしていることへ向き合うヒントが多くあります。事業やプロダクト・サービスの目指したいゴールが定まったら、各々がロールモデルの有無や既成概念にとらわれないこと。そして目的を達成する明確な意識を持って、実現のために必要な課題を地道にクリアしていくことが大切です。
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