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知財の価値を未来につなげる。「経営デザインシート」に込めたイノベーションへの想い

2019年4月より内閣府 知的財産戦略推進事務局が主催で行われる「経営デザインシート」のデザインコンペ。

前編では「経営デザインシート」の制作背景から活用シーン、そこにかける想いをお伺いしました。今回はそれを踏まえて、「経営デザインシート」のデザインコンペを行う目的や、そこにかける期待をお話しいただきます。
コンペ開催の裏には、日本企業への熱い想いがありました。

▼経営デザインシート リデザインコンペティション 詳細ページ
https://www.vivivit.com/entries/keiei-design-sheet

デザインされていない「経営デザインシート」

ー「経営デザインシート」のデザインコンペをなぜ行おうと思ったのですか?

「経営デザインシート」を公表してから様々なコメントをいただいたのですが、その中で一番グサッと刺さったのが「経営デザインシートというわりに、デザインがなっていない」というものでした(笑)。

確かにそうだよな、と。何だか四角しかないし、色もきついなと(笑)。私もすごく共感しました。デザインシートといいながら、制作しているときは、デザインをどうにかするということに思い及ばなかったんです。
ところがよく聞いてみると「デザインとはただ見やすいということではなく、書きたくなる、使いたくなるようにすることなんですよ」と言われて。私はきちんと要素が含まれていて、それぞれのパートの関連性(コネクティビティ)がわかりやすければ良いと思っていたんです。
しかしこのシートを使う目的はもっと「考える」ということや「ストーリーにする」という部分が大切ですよね。そうすると、この空欄を埋めていけば良いように見えてしまうデザインではよくないなと。
全く書き手の気持ちになれておらず、「面白そうだし書いてみようかな」と思わせるデザインではなかった。指摘を受けて心から「確かになあ〜!」と思いました。
だから今回のコンペでは、良い作品が出てくることを本当に期待しています。

もうひとつは、統合報告をわかりやすくしたものだと言いましたが、相変わらず色々書いてあるんですよね。やはりとっつきにくい。ひとつの完成系としてこれがあるのも良いですが、本当に大切な骨組みのところがもっとはっきり見えるようなデザインにならないかなと思ったんです。

もちろんこのデザインをプロのデザイナーさんにお願いして決める方法もあります。ただみなさんに、人ごとだと思って欲しくなかったんです。
それぞれがこのシートについて「これは自分の話だ」と思い、どうすれば書きやすいか、書こうという気になるか、書いた事柄のつながりがわかりやすいかを、自分になぞらえて考えてほしい。そしてもっと多くの人に知ってもらい、使ってほしい。そう思ってコンペを開催することにしました。

ーiPhoneを筆頭に感覚的にわかるものが主流になってきている中で、説明がなくてもわかるデザインは利用のハードルを下げますよね。

そうなんです。さらにもうひとつは、相変わらず紙だ、という問題があります。おっしゃる通りスマホで使えるというのはいま非常に重要ですよね。これからの時代を担う人たちが、このA3のペーパーを使うのか?いや、違うでしょう。
だからコンペでは、スマホで使えるソフトのようなアイデアが出てきても良いと思います。ひとつずつ設問に答えていくと、最終的に見やすい図ができあがるような。

ーそうなんですね!私もこの話を聞いたとき、アウトプットは紙じゃなければいけないのかと思いました……。

いえ、なんでも良いんです。提出はデータですし、送られてきたURLをクリックしたら設問が始まっても良い。
既成概念にとらわれずどんどん膨らませてほしいです。お絵描き大会のコンテストではなくて、もっとすべてをデザインしてほしい。名前が悪ければ、変えても良いですよ。

ーグラフィックにとどまらず、全てのクリエイターが応募できるコンペになっているんですね。

そうです。もちろん全てが選ばれるわけではないですが、面白いものをつくったらビジネスを起こしてくださっても良いですよ。

脳が若返るくらいハッとする、ピュアなアイデアがほしい

ーコンペの参加者が学生なのはなぜですか?
これをきっかけに、ビジネスに興味を持ってほしいんです。デザインを学ぶ学生は、もしかするとデザイナーはデザインをやるだけだと思っていて、ビジネスなんてよくわからないかもしれない。でも、ビジネスとはこういうことなのかなと思ってくれたら良いなと思います。

「経営デザインシート」のデザインのためには、それが何のためにあり、どういったターゲットに何をさせるためにあるのかを考える必要があります。それを通して学生には、狭義のデザインから、社会が求める広義のデザインにいたるまでの思考が、ビジネスや経営とどう結びついているのかを知ってほしい。その機会を提供したいと考えて、学生を対象にしたコンペとしました。

いまは経営デザインやデザイン経営といった言葉が話題になっているように、これからのビジネスに必要なのはデザイン能力なんです。ところがデザインはこれまで日本の企業が使ってこなかったものなので、デザインをできる人は企業でものすごく重宝されます。
その予備軍である学生さんたちに、企業・事業・ビジネスというものを知ってもらって、「これなら自分たちの力が使い放題じゃん」という可能性を感じていただきたいです。

そしてこのコンペに参加したことを機に、ビジネスとデザインのつながりが面白いと思う人がどんどん現れてほしい。未来の高度デザイン人材を育てるという意味でも、学生に参加してほしいと思っています。

ー将来的に経営に携わるような、高度デザイン人材の育成ということなんですね。

もうひとつ私の意見としては、一度社会に出てしまうと、どうしてもビジネス目線の偏見から逃れられないと思うんです。もちろんそれは当然だし、それで良いのですが、ある種のフレームが小さくなってしまう。
その点学生はこの評価によって何かを失うリスクもないですし、ピュアですよね。はっちゃけていられるというか。
今回は本当に良いものにしたいと考えているので、ピュアな心で自由に発想して、様々なアイデアがほしいんです。

ー「これが審査員にうけるだろう」というビジネス的なテクニックを用いるのではなく、もっと自由に考えてほしいということですね。

そうなんですよ。社会に出ているデザイナーさんは、ビジネスにおける成功体験がある。そして積み重ねた経験がある。そうすると「これはあの会社で使ったアイデアだ」ということも起きてしまいますよね。
そういった制約なく考えてくれるアイデアがほしいなと思っています。

ただ本当に学生ではなくても「自分は学生のマインドだ!」という強い気持ちの方がいらっしゃれば応募していただきたいくらいです(笑)。

ーではコンペに提出される作品に期待していることはなんでしょうか。

脳が若返るくらいハッとするような。そうきたか!という作品ですね。私ももう頭が固くなっていますから(笑)、そういった刺激があると脳が活性化されそうです。
わからない言葉を使ってくれても面白いですね。学生は当たり前に使う言葉だけど、私たちにはわからないような。

ー「エモい」とかですか(笑)。「あなたの事業のエモいところは何ですか?」「卍(まんじ)な価値は?」というような。

そうそう(笑)。そういった知らない言葉があっても良いです。変革を恐れない人たちの頭で、自由にいろんな角度から考えてほしいと思っています。

自分だけではなく社会のため。本来の日本的ビジネスに立ち返るきっかけに

ーコンペの終了後は、選ばれた「経営デザインシート」をどのように広めていく予定ですか?

まずはWebサイトに掲載すること。そしていまも行っていますが、説明会やワークショップを開催します。
「経営デザインシート」のデザインはひとつだけではなくて良いので、いくつか用意してそれぞれの企業が使いやすいものを使ってくださることが理想です。
そうすると業界や会社規模の違いで、選ばれるデザインの偏りがわかるかもしれない。それぞれの特徴や改善点がわかると、もちろん制作者にも声をかけて、改良していくこともできます。

ー完成した「経営デザインシート」を用いて、日本企業にどうなっていってほしいですか。

目の前のことだけを考えるのをやめましょう。ということをお伝えしたいです。
本来日本の企業は、目の前のことばかり考えるなんてことはなかった。昔から「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三方良し。これはSDGs(※)そのものです。
商売を自分だけじゃなく、社会のためにやっているんです。一人勝ちはしない。こんな国は他にありません。アメリカもヨーロッパも、ほとんどの人は自分のため。
世の中のためにならないと、自分が儲けてもだめだと、そういう素晴らしい心意気で商売をやってきたんです。
江戸時代の株仲間も、いわゆる株式ではなくて、人間味のある仕掛けになっている。日本が大事にしてきたビジネスの形は、決して一人勝ちしない
このシートを使っていくと必ず、「提供する価値」の部分にその良さが出てくる。言われなくても出てくるんです。

※持続可能な開発目標:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/index.html

いまは世界的に環境問題がブームなので、思っていなくてもポリティカリーコレクトだからといってCSRに細工をします。そうではなく、本当の日本らしいビジネスマンに立ち返って、本当に提供したい価値とはなんなのかを自信を持って発信してもらいたい
それがいまできている人、これまでできていた人も、時代が変わるのに応じて変化して、新しいビジネスのデザインが必要になってくる。それを本気で考えるときに、デザイナーの発想が必要になります。
デザインって、パーツだけがデザインされていても作品としては完成されていないですよね。全体がデザインされていないと。
そのためにこの「経営デザインシート」を使って、デザイン的な発想を用いて、これまでとは違う組み合わせの新しい価値をつくっていく。そういう企業が増えてほしい。そこにはデザイナーの力が必須なんです。

ー日本企業に対して本当に熱い想いで「経営デザインシート」を制作されたんですね……!では最後に、その「経営デザインシート」をこれから利用する企業の方々へメッセージをお願いします。

今回のコンペは、きっとすごいのが出てくるので、たぶん見ただけで使いたくなると思います(笑)。少しずつでも良いのでとにかくやってみて、誰かと話をして、どんどんわかりやすいものにしていってください。
本当に大事な部分は、話せば話すほどはっきりしてくると思います。それを自分自身も発見し、他の人の力も使いながら共有して、説明していく。
自分自身が発見するということがこのシートの大きな目的のひとつでもあるし、発見して意思を固めることにも使えます。
いままでと違う人たちと話をして、発想を豊かにしながらつくっていくという活用もしてみてください。

これをやったからといって、四半期ですぐ目に見える効果が出るようなことはないかもしれません。でもイノベーションを起こそうという気持ちを、必ずわかってくれる人がいます。その人を見つけて、新しい方針でじっくり腰を据えて、自信を持ってやっていただきたい。
日本の企業はいまのままではだめなんです。従来のビジネスの延長で物事を考えるのでは、立ち行かない時代になってきたんです。
この「経営デザインシート」を、大きく発想を転換するチャンスにしていただければ幸いです。

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