2013年にデザイン戦略室を立ち上げ、事業毎のデザイン責任者が、クリエイティブのクオリティを担保することを決めたサイバーエージェント。2016年にはミッションステートメントに「クリエイティブで勝負する」という一文を追加し、クリエイティブを生み出すクリエイターの採用にも力を入れています。

同社ではクリエイター採用がクリエイター組織に一任されており、クリエイター自らが採用の現場に携わるそう。
そんなサイバーエージェントの「クリエイター採用」と「経営に関わるクリエイター」について、取締役の曽山哲人さんと執行役員の佐藤洋介さんという、豪華なおふたりに対談形式でお話を伺いました。貴重なお話を、2週に渡ってお届けいたします!

曽山哲人/株式会社サイバーエージェント 取締役 人事統括
上智大学文学部英文学科卒業後、新卒で株式会社伊勢丹に入社。その後1999年にサイバーエージェントへ。インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年に人事本部長に就任。現在は取締役として採用・育成・活性化・適材適所の取り組みなど、人事全般を担当。「クリエイティブ人事」(光文社新書)など著作多数。
佐藤洋介/株式会社サイバーエージェント
執行役員 クリエイティブ統括室室長
 通称シュガーさん。
2012年にサイバーエージェントへ中途入社。数々のスマートフォンサービスを立ち上げ、2013年にクリエイティブ統括室の前身となるデザイン戦略室を設立。現在は各サービスのUIデザインを監修するとともに、クリエイターの採用にもメインで携わっている。

守らず攻める。ロゴ変更に込めた意図

ー「クリエイティブで勝負する」という言葉がミッションステートメントに加わった背景を教えてください。

佐藤さん

2013年に藤田(代表取締役社長)の直下でデザイン戦略室を設立したんです。それまではサービスごとにデザイナーが縦割りで分かれていて、クオリティを統括する仕組みがなかった。それを整備したいということで、僕を含め各管轄から数名が呼ばれました。

設立当初は既存のサービスクオリティの底上げがメインミッションだったのですが、運用だけでなく、新規サービスのクオリティ担保もしていくようになりました。
2015年には、「AWA」や「Ameba Ownd」など、クリエイティブにこだわったサービスが立て続けにリリースされました。その翌年に「クリエイティブで勝負する」がミッションステートメントに加わったんです。

曽山さん

それよりもっと前の2011年に、「スマホシフト宣言」をしたことも大きいと思いますね。PCサービスの割合が大きかった弊社が、2年で100個のスマホアプリをつくろうと。そこで大勢のクリエイターを採用して、その頃シュガーさんも入社したんですよね。

それまではスマホに最適化されたクリエイティブという概念はあまりなくて、デザインが際立っている感じもなかった。大勢のクリエイターを採用する中で「こういうふうにしたほうが良いですよ」とも言われていました。

佐藤さん

アプリを使うユーザーが最初に目にするのってクリエイティブであり、圧倒的な初期体験ですよね。Appleもそうですが、箱を開けたところからUXがスタートしている。
そういう上質なものに触れてユーザーのリテラシーが上がっていったとき、今後重要になってくるのはクリエイティブだろうと。

曽山さん

それから藤田は「クリエイティブを強化したい」「クリエイティブが大事だ」と折に触れて役員会で口にするようになったんです。
「ロゴを変えたほうが良いかな」とも言っていて、誰に相談しよう?とシュガーさんのところへ行ったんです。

佐藤さん

相談が来ましたね。現場にクリエイティブの重要性を浸透させるために、いちばん手っ取り早い方法としてCIをアップデートし、指針を示したかったんだと思います。
10年くらい使っていたロゴを変更することで、慣れ親しんだものを常に打開し続ける姿勢を社内外に示したかったのではと。「クリエイティブで勝負する」ために、守るのではなく攻めていく姿勢を表現したかった。一流のクリエイターと共に。

藤田から相談され、世の中のアートディレクターをものすごく深掘って、候補をたくさん洗い出したのを今でも覚えています。その中にNIGO®️氏も。当時NIGO®️氏がユニクロの案件に携わっている記事を見ていて、こんなこともやっているんだなあと思ったんですよ。
彼がつくるクリエイティブなら、いままでのアメーバとも親和性が高く、キャラクターやブランディングにもものすごく精通している。なによりアパレルやファッションってデザインの最先端であると思っていて、クリエイターとして世界を舞台に活躍されているNIGO®️氏なら素晴らしいものをつくってくれるんじゃないかと。……実際はそこまで考えずに、資料に入れていたんですけど(笑)

藤田と擦り合わせをした際に、手が止まったのがNIGO®️氏でした。あとで聞くと藤田はNIGO®️氏とはもともと知り合いだったらしく。彼となら一緒にやれるイメージと信頼があったんでしょうね。

10年先のブランディングを考えたクリエイティブ

ークリエイティブを強化する取り組みを始めてから、社内の意識が変わった実感はありましたか?

佐藤さん

CIを変更して「クリエイティブで勝負する」というステートメントを掲げても、急にガラッと会社が変わった感じはなかったですね。
CIを変えても結局は、封筒やカバンなど本当に細かい身近なところからスタートして、みんなに浸透するまでにはそれなりに時間がかかります。ブランディングと同じで、一日にしてならず。意識への刷り込みをじっくりと行う必要があります

曽山さん

僕の中で実感したのは、まずはロゴに関するガイドラインがシュガーさん達から発表されたとき。そのレギュレーションがすごく細かくて、「そういうものなんだ」って社員が理解したのは大きいと思いますね。
全体の世界観がある中で、ロゴの色を勝手に変更してはいけないなど、かなり強めに伝えられたんですよね。これは厳しいな、と僕は思ったんですが、だからこそのクリエイティブのこだわりなのだと思いましたね。

佐藤さん

もともとうちが使っていたアメーバのクリエイティブって、社内外でとても親しまれていたんですよ。社員が企画書や部署のポスターをつくる際に、結構ライトに登場していました(笑)。ルールで縛りきれてなかったんですね。
でもCIを変更する際に藤田から言われたのは、「会社のクリエイティブの方向性は『希少性(Rarity)』を大事にするようなブランディングにしていきたい」と。
だから曽山さんが言うようにガイドラインを少し厳しめにつくって、キャラクターである「アベマくん」を何かに使用する際はクリエイティブ統括室のチェックを通さないと社内外には公開できない、という決まりにしたんです。
キャラクターは特に個々の判断で使いたくなりがちなものなので、当初はけっこう反発もありましたよね。

曽山さん

あったあった。「前はこう使えたのに!」という声もあり、ちょっとした苦労でしたね。でも、これでいくんだという思いがあったので、それで良いと思っていました。

佐藤さん

藤田の思いもありましたし、この先10年ブランディングをしていくときのハンドリングを考えて、けっこうきつめに設定をしていましたね。

曽山さん

それから2〜3年経って、当たり前になりましたよね。その辺にアベマくんいないもんね。出るところにしか出ない、すごく統制がされている。

佐藤さん

普通に考えるとロゴとかキャラクターってオフィスをつくる際に忍ばせたり、テーブルがそれっぽい形になっていたりすると思うんですが、一切ない。限られたところに必要最低限のブランディングが仕込まれている感じですね。

サービス開発の手法もガラッと変わりました。「AWA」や「Ameba Ownd」はクリエイティブファーストでつくられていて、とても尖っている。決められた仕様書を再現するつくりかたではなくて、現場のデザイナーやエンジニアが実装しながらつくりあげる手法なんです。

曽山さん

「AWA」と「Ameba Ownd」ができたことによって、採用での学生の反応も全然変わったと僕は感じますね。
デザイナーはもちろん、エンジニアやビジネスサイドの採用でも、「あんなサービスをつくりたいんです」と言われることがあります。
昔と比べると、クリエイティブによって明らかに採用力が上がったなと感じました。

わかる人が採用し、育てる。

ー採用に関連したお話で、クリエイター採用に関してはシュガーさん率いるクリエイター組織に一任していらっしゃると伺いましたが、それはなぜですか?

曽山さん

エンジニアもクリエイターもそうですけど、わかる人が採用することが大原則。人事が見るべきなのは「会社のカルチャーに合う人なのか?」という部分だけなので、最終面接は僕が担当しています。
悩んだときは率直にフィードバックしますが、人事ではそこだけを見て内定を出します。

面接を行っているもうひとつの理由は、仲間になるであろう方にウェルカムの気持ちを伝えて、クロージングを手伝いたい気持ちですね。

佐藤さん

僕らはクリエイターとして、学生の造形力やアイデアがある人材かどうかの判断はできます。でも採用ってその人の今後10年20年の人生を預かることなので、会社と本当にマッチングするかはしっかり確認しないといけないなと思っていて。
だから曽山さんに最後に会ってもらって、率直なフィードバックをもらってから評価を決めています。

曽山さん

採用後の育成や配置もシュガーさんが全部責任を持っていますよね。ゲームもメディアも、クリエイターがちゃんといきいきと活躍している。
クリエイターに関しては、「びっくり退職」が少ないんですよ。急に「えっ辞めんの!?」ということがほとんどありません。辞めるにしても理由がはっきりしていて「その事業がやりたいなら、辞めたほうが良いね」と送り出せる。
それってつまり、シュガーさんがきめ細やかにキャリアを考えたり、評価でも率直に意見を伝えてくれたりしているからなんですよね。採用した学生の受け入れをちゃんとやってくれている。

佐藤さん

クリエイティブ統括室をつくって採用も強化していこうとなり、受け入れもしっかりし始めたんですよ。それまではゲームもメディアも広告もたくさんの事業がある中で、それぞれが採用を行っていました。
でもうちの会社の良いところって、すごくたくさんの事業をやっているので、社内異動が転職みたいな規模感でできるところなんですよね。
せっかくサイバーエージェントに入ってくるなら、ひとつの事業部だけじゃなくて、いろんなところで活躍できるような人材のほうが良い。そうなると個別に採用するのではなくて、ひとつの入り口から採用したほうが良いですよね。そしてそれからのキャリアは個別に相談していく。だから採用と受け入れを僕がしっかり担当するスキームになっています。

曽山さん

採用に関しては、YJC(※)といって、役員が部署横断でチームを編成して、採用を人事だけではなくて各事業部中心でやりましょうということになっていますから。

※「良い人を(Y)、自分たちで(J)、ちゃんと採用する(C)」プロジェクト。詳しくはこちら

佐藤さん

人事が大学をまわって学生を集めるのではなく、現場社員がはじめから直接採用に関わっているんです。
例えば「UIDA light」というインターンを現場で企画して、地方の学校向けに1Dayで開催しています。現場の社員がいろいろなところへ行って学生と交流を持つのですが、これの良いところは、自分が働きたいと思える人材とのマッチングにあると思っています。採用にかなりパワーを使っている分、大きく良い影響がでていると思います。

社員自身も会社を代表して行くので、俯瞰して会社を見なければならないし、会社についていろいろと調べることで会社理解が進むメリットもあります。
クリエイティブ以外のスキルも養えるので、あえてローテーションで多くの社員に参加してもらっていますね。

企業と学生が、互いにミスマッチを生まない仕組み

ー現場が主導の採用を行っていく中で、会社全体の人事はどのように関わっているんでしょうか?

曽山さん

人事側のチームでは、全社・部署・職種を横断した広報活動などを行っていますね。他には採用や面接ツールのブラッシュアップなど、共通の機能を管理や改善しています。
他にも問題提起があったら、各チームと人事とで話し合うことはあります。それぞれの組織が横断して、どこの採用人数を増やしたほうが良いとか、もっと別の職種があるんじゃないかとか、じゃあコラボしようとか。それ以外の採用計画や人数に関しては現場で考えてもらっていますね。

現場に任せることになかなか踏み切れない会社もあると思います。でもここでひとつポイントになるのが、僕がよく使う言葉、「採用から才能開花」。採用してから活躍するまでの一気通貫がすごく大事だと思うんです。
人事が採用屋さんをやっていると、そこが断絶しちゃうんですよ。採用した人を引き渡したら終わりになってしまう。
そうすると人事は「なんであんなに良い子辞めさせちゃうんだ」、現場は「なんでこんなにレベルが低いんだ」ということが起きてしまう。それなら、採用した人が責任を持って育てるのがいちばん良いですよね。
そこをシュガーさんが担ってくれているので、任せられるんです。採用計画をつくるときも、現場からのリクエストだけで決めない。

佐藤さん

新卒が欲しいって部署はたくさんあるんですけど、教えられる人がいるかを聞くんです。現場のキャパはあるかどうか。それを聞いて、新卒が育つ環境じゃないと思ったら「即戦力の中途採用を強化したほうが良いのでは?」とアドバイスすることもあります。
新卒が育つには何年もかかりますし、ものすごくコストがかかる。それなのに環境が良くなかったり、現場のキャパがオーバーしていたりすると、両者にとってメリットがないですよね。だから受け入れ側のキャパから、ちゃんとつくっていくことが重要だと思います。

曽山さん

あともうひとつ、人事から見てクリエイティブの採用が良いなと思う点は、面接だけで決めないというところ。それが「UIDA(※)」なんですが、宿泊合宿で一日中一緒にいることで、人間がさらけ出される状態をつくっている。そこで、お互いに人として一緒に働きたいのかをみられるフローになっているんですよね。
採用してからも簡単に人材のキャリアを諦めない、信じられる環境ができている。UIDAがどんなものかはぜひシュガーさんから(笑)

※UI Design Academy(UIDA)。合宿形式で学生と社員が制作に取り組むインターンシップ。

佐藤さん

ちょうど先日、冬期のUIDAが終わったところです(笑)。UIDAを始めた当初は学生に平日のオフィスに来てもらっていたんですが、社員にフルコミットしてもらえるよう、週末に合宿形式で行うようになりました。
曽山さんが言ったように、寝食を共にすることでお互いに信頼関係を築く目的もあります。

もうひとつ合宿の良いところは、僕も普段から意識していることですが、サイバーエージェントのクリエイターのファンを増やせることです。現場が全員で採用しているのでメンター社員もチームとして一体感があるし、事業部を越えた関わり合いもあります。事業もクリエイターもいろいろだけど、結局サイバーエージェントのクリエイターってひとつだよね、ということをわかってほしいんです。
実際に学生さんからは「合宿にはいろんな事業部の方が来るのにみんな仲良いですよね」とよく言われます。そういう意味では、僕ら自身も審査されていると思っています。

曽山さん

第5回目の沖縄では、外でバーベキューやろうと思ったら雨が降っちゃってね(笑)。でも参加した学生と面接したら、「僕らは屋根の下で待たせてもらって、先輩が雨の中体張って焼いてくれたんですよ!すごく嬉しかったです」なんて言われました(笑)。
そんなふうに、社員同士の関係性が見られるのもすごく良いですよね。採用する側も自分たちを晒すスタンスって、採用では重要なトレンドなんです

佐藤さん

入ってからのミスマッチが少ないですよね。「こんな会社だと思わなかった!」と言う新卒はほぼいない。曽山さんが言った「びっくり退職」がないのも、まさにそのおかげだと思います。


 

▼後編はこちら
役職よりも、フラットに意見を言い合うことから。自然と始まる「デザイン経営」の実践