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ロゴ変更から採用まで。「クリエイティブで勝負する」ための先を見据えた会社づくり

信頼できるクリエイターを、経営層に引き込む

ー採用を完全に任せられる、会社の意思決定にクリエイターが関われるというのはシュガーさんがいるからできることだと思います。どのようにしてシュガーさんをアサインされたんでしょうか?

曽山さん

経営者と話せるかどうか」の一点に尽きます。まずは藤田が「デザイン戦略室」をつくるにあたってシュガーさんと数名のメンバーをアサインしたんですが、リーダーシップをとったのがシュガーさんでした。
現在は執行役員という肩書きがあり、もちろん活躍してくれています。ただ本来肩書きはどうでもよくて、藤田と一緒に話せるクリエイティブのリーダー、という関係性があることがいちばん重要
企業のトップがクリエイターではなくて、クリエイティブを強化したい場合は、トップレベルのクリエイターと直接話せる状態をつくるのがいちばん良いんじゃないかなと思います。クリエイティブに関する話がしやすくなりますよね?

佐藤さん

そうですね。当時は全然違うビルに僕のデスクがあったんですが、デザイン戦略室ができてからは藤田のそばの席に移動しました。
座席を移動してすぐに言われたのは、半年に一回の全社総会で発表する、スローガンのロゴをつくってくれと。総会の前日くらいに言われて、このスピード感でいくのか……とは正直思いました(笑)。でも「クリエイティブのことはシュガーに頼んでおけば大丈夫だろう」という信頼関係ができたのはすごくありがたいなと思いますね。

クリエイティブを強化したいからといって、単純にクリエイターを経営層に引き上げても絶対にうまくいかないと思うんですよ。
引き上げようとして引き上げるのではなくて、普段からコミュニケーションをとる中で、経営者とうまくシナジーを生めるクリエイターがいれば、勝手に経営に携わっていくと思うんです。無理やりつくることはできないんじゃないかと思いますね。

曽山さん

人事本部長を中途採用することも同じで、いきなりトップの肩書きで引っ張ってくるのはリスクが大きいと思います。悪い話ではないと思いますが、うまくやるには努力が必要。
一方でサイバーエージェントは、事業も人もゼロから育てる文化です。僕らはふたりとも中途ですが、若いうちに入社して叩き上げられ、経営者と話せる関係性になってから役割をもらったんです。そうすると経営者との間に思想のズレがないので、そこは大きいと思いますね。

経営者と自然体で接する、高いコミュニケーション能力

ー自然と経営に携わっていくとは言っても、やはりどんな人を候補にするかは迷うところかと思います。全般的にみて向き不向きはありますか?

佐藤さん

経営層に入るクリエイターは、まずコミュニケーション能力が高いことが重要ですね。もちろん単純におしゃべりというわけではありません。
これは採用の際にもよく言うんですが、クリエイターっていろんな人と議論をして、いろんな人の気持ちをアウトプットしなければいけないですよね。だから他者を理解して、自身の考えを浸透させるためのコミュニケーション能力が大切。
人の気持ちをよく理解できるようなタイプが良いかもしれないですね。何か問題が起きたときには、相手や物事に合わせていろいろな提案ができることも大切です。

ちなみに僕は自分で言うのもあれですけど、人に担がれやすいというか、「シュガーが言うならやるか」と言ってもらえるほうだと思っています。こいつのためにサポートしてやろう、と僕のためにいろいろやってくれる人が周囲にすごくたくさんいるんですよ。
僕一人で何かできるかというと当然できる範囲が狭いのですが、サポートしてくれる心強い仲間がいるからこそ大きな仕事ができる。しかもそういう人がどんどん寄ってくる自覚はあります(笑)。だから多分、人を動かすのが得意なんだろうなって思います。

曽山さん

なるほどね。僕が思うシュガーさんは、藤田に近いところにいても、自然体だなあと思いますね。裏表があまりないというか、感じたことがない。常に率直なんですよ。
「それはちょっと違うと思うんですよね」「それはめっちゃ良いと思います」とはっきり言ってくれる。自然体なので感情の波もないですし、すごく仕事がしやすいですね。

例えば一緒に評価制度をブラッシュアップしようというプロジェクトをやったりするんですが、常に安定しています。
それは藤田も同じで、彼も常に自然体。仕事のスタンスを質問すると、「平常心」とよく言うんですよ。仕事において感情の起伏がないのは、人間的な武器だと思います。僕はどちらかというとテンションが高めなので(笑)。
そういう意味でもすごく安心感がありますね。シュガーさんが担がれるのも、自然体で嘘がないからだと思いますよ。

佐藤さん

動じている自分を他者に見られるのが恥ずかしいので、動じないようにしているんですよね。内心はすごく焦っているときもあるけど、人に「あいつあたふたしてんな」と思われるのが気持ちよくない(笑)。
自分の感情を、外向けには平常に保つ癖はあると思います。

曽山さん

質問なんですけど、クリエイターとかエンジニアって、コミュニケーション能力の高い人もいますが、そうではない人もいますよね。すごく能力が高くてもコミュニケーションが苦手なクリエイター。この人が経営層に入るのは、少し難しいってことですか?

佐藤さん

そうですね。経営を理解する為には、自身と他者との違いを理解していることが前提な気がします。経営を理解しろといっても誰が教えてくれるわけでもない。どちらかというと自身の価値観と会社の価値観をすり合わせて、自身で定義し続けるものだと思います。そのためにはコミュニケーションが前提になってきます。
クリエイターとして突き抜けるキャリアはもちろんありますが、理想と現実のギャップを自らの意思で埋めることができる人材でないと、経営層に入るのは難しいんじゃないかなと思います。

曽山さん

では今回ロゴ変更に際して選定したアートディレクターの方々も、コミュニケーション能力が高い方が多いんですか?

佐藤さん

意識してはいなかったんですが、考えてみると皆さまコミュニケーションは上手だなって思いますね。
クライアントワークをされてる方々って、もちろんクライアントと一緒に何かをつくらないといけないですよね。つくりたいものをつくれば良いというのはアーティストの発想ですが、職業としてデザインをしている人はそうはいかない。絶対的にコミュニケーション能力は必要ですね。
すっごく性格が悪くても、コミュニケーション能力が高いってことも全然あるんじゃないかと思いますね。良いか悪いか別として(笑)。

互いを理解して、否定せずに議論する。

ー「デザイン経営」が浸透していき、経営層にクリエイターがどんどん入っていくために、クリエイター自身にはどんなスキルが必要だと思いますか?また、それを活かす人事や経営者にはどのようなスキルが求められますか。

佐藤さん

この業界ってとにかく変化が早いんですよね、トレンドがどんどん移り変わっていく。
クリエイターはもちろん造形力などのスキルも必要ですが、そういう変化に対応する力がこの先重要になってくると思います。時代の変化に合わせて自分をアジャストしていくような力が、求められていくんじゃないかなと。

曽山さん

クリエイターを活かす経営者や人事に求められるのは「声を聞くこと」と「自分の決断をきちんと伝えることだと思っています。相手の声や提案はちゃんと聞いて尊重しながら、迎合しないこと。
すぐ否定してしまったり、結果に対する努力を認めなかったりすることは非常に良くないんですが、意思決定を全て任せてしまうことも違う
相手に対する敬意は持ちつつも、結論が他の人と違っても「自分はこうしたい」という思いを強く持つ。このバランス感はとても重要だと思いますね。
そこを大事にすれば、クリエイターのみんなもすごく寄り添ってくれる。最後には「注文は厳しいですけど、いつもちゃんと聞いてくれて、議論できるのが嬉しいです」って言ってくれるんですよ。

佐藤さん

曽山さんは僕が何か相談したときにも、最初に否定をしないんですよね、こうしたほうが良いという意見はあると思うんですけど、まず否定をしない。ここはマネジメントにおいてすごく参考にしています。
いきなり否定に入るよりも、一個一個賛同してそこから会話を広げてく。そういうコミュニケーションの能力は、曽山さんを見ていてすごく良いと思う部分ですね。

曽山さん

シュガーさん、他に何かあります?例えばスタートアップの社長に「クリエイティブ強化したくて困っているんですよ」と相談されたらなんて言いますか。

佐藤さん

「クリエイターになんでも言ってください」とはよく言っていますね。
「この人に言ってもわからないんじゃないか」「デザインのことがわからないから意見が言えない」というような、言いたいことを言えない関係性は良くないです。

曽山さん

気を遣うとだめですよね。

佐藤さん

意外とクリエイターって、経営の意図とかを聞きたいんですよ。意思決定はもちろん経営側なんですが、それに必要な材料をたくさん揃えるのがクリエイターの役割。
経営側は「うちのクリエイターは経営のことがわかっていない」、クリエイターは「経営側はデザインのことがわかっていない」とコミュニケーションを諦めるのではダメです。お互いの立ち位置を、お互いに理解し合うことが重要ですね。

曽山さん

サイバーエージェントのクリエイターやエンジニアのみんなはよく藤田のことを「いちばんのヘビーユーザーですね」というんですよ。これはかなり強力な武器ですよね。

佐藤さん

いちばん使っているユーザーが、いちばん開発者に近いところにいる
僕らがデザインを提案するときでも、藤田は自分の感覚ではなくて、ユーザーの目線で話しているんですよ。だからハッとすることはたくさんあります。
よく僕は悔しい思いをしますよ。言われると「あ、確かに」と思っちゃうんですけど、どうしてもっと早く自分で気付けなかったのかと。毎回そういう感じですね。

最後に

学生が就職したい企業として人気のサイバーエージェント。その採用への考え方は決して驕らず、長期的なキャリアを見据えて一人ひとりに人として向き合う、真摯なものでした。
ミスマッチのないよう採用に手間と時間をかけ、互いに評価し納得しあえる仕組みを確立。「人事任せにせず、現場が積極的に採用へ関わるべき」という考え方も、まさにその通りだと実感しました。

そして「デザイン経営」の実践でも知られた同社ですが、重要なのは「経営者と対等に話せること」。無理に役職を与えるのではなく、自然体で意見を言える信頼関係づくりがその第一歩ということでした。

人事統括とクリエイティブ統括のおふたりという豪華な取材でしたが、どちらも驚くほど丁寧かつフランク。「サイバーエージェントのファンをつくることを意識している」とシュガーさんが仰っていた通りになってしまいました。
相手に関わらず、誰にでも変わらない態度で接する姿勢はまさにブランディング。こうした積み重ねが、学生からの人気を集めるひとつの理由だと感じました。

<取材・執筆・撮影:シンドウサクラ>

意外にも、初めての対談取材だから、と取材後に自撮りをされるおふたり