今回のインタビュー:株式会社ディー・エヌ・エー

株式会社ディー・エヌ・エー
デベロップメント統括部 副統括部長 兼 デザイン部 副部長
楠 薫太郎さん
大学在学中からキャリアをスタート。ディレクター/デザイナーとして紙媒体、Web、映像コンテンツなど携わり、フリーランスも経て2012年にDeNAへ入社。複数のゲームディレクションを経験し、「DeNA Games Tokyo」の創業に参画。現在は取締役を務める。
株式会社ディー・エヌ・エー
ヒューマンリソース本部 人材開発部 新卒グループ
和泉 純一さん
デザイン事務所やITベンチャーを経て2011年にDeNAへデザイナーとして中途入社。スマートフォン版Mobageやソーシャルゲームのリニューアル、新規サービス立ち上げなど担当し、現在は新卒デザイナー採用と育成を担当。数々の美術系大学で講師もしている。

グループ全体で多くのデザイナーを抱え、全社でデザイン経営に取り組む 株式会社ディー・エヌ・エー 。同社の新卒デザイナー採用は、採用担当者が自らの足で様々な場所へ赴き学生と関係構築するところから始まります。学生のみならず社員までもが涙するサマーインターンシップを実施したりと、熱量が高いことで有名です。
今回は、同社の新卒採用への考え方サマーインターンシップの企画・実施のナレッジ、また社員の育成方針までじっくりと伺いました


事業の根幹は、間違いなく“人”

ーーDeNAと、DeNAのゲーム事業について教えてください。

楠さん
DeNAは「Delight and Impact the World」をミッションに掲げ、どんなプロダクトもサービスも、世の中に感動と喜びを与えられるものであることを目指しています。その中のひとつであるゲーム事業でも、当然ミッションは同じです。

デバイスの進化に伴い、ゲームというプロダクトを世界中で様々な人々が各々の生活リズムにあわせて自由に遊べるようになったと感じています。この状況においてゲームをつくることは、当社が掲げるミッションを実現するのに適していると思います。

ーーゲーム事業を担う人材の採用については、どのようにお考えですか?

楠さん
事業を継続し成長させていくためには、事業の根幹は間違いなく“人”。間違いなく“ 人 ”が重要になってくると思います。

さらにDeNAの中でゲーム事業は注力している柱のひとつで、社内はもちろん世間からの期待値も大きく、経営的な責任も大きい。そこに携わるスタッフは、大きな期待とプレッシャーを背負いながら日々プロダクトをつくっています。だからこそ、一緒にゲーム事業を盛り上げてくれる仲間を増やすための採用には、常にこだわりたいと考えています。

ーーゲーム開発人材の採用ならではの、気をつけている点はありますか?

楠さん
ゲームは技術も開発の手法も様々で、ジャンルも非常に多いので、開発に必要な人材要件も多岐に渡ります。そのため事業や市場のトレンドなどのバックグラウンドを適切に分析した上で採用をしないと、ミスマッチが起きやすい業界なんです。

ミスマッチが起きると採用する側もされる側も不幸になってしまうので、必要な人材を適切に採用することをいちばん大切に考えています。

ーー必要な人材かどうかを判断するポイントはなんですか?

楠さん
事業に対して、その人がどれだけ力を発揮できるかですね。アーティスト的なクリエイターは、自分が発信したいものを創り発信することが仕事。でもDeNAでは、世の中にDelight(喜び)を届け、事業に貢献することが仕事になります。

新卒を採用した際も、本人の意向をヒアリングしつつ事業に最大限のパフォーマンスを発揮できるアサインを考えていますし、育成とキャリア設計も同様に考えています。

ーーではDeNAの中でも大きな責任を伴うゲーム事業において、新卒採用を行っている理由を教えてください。

楠さん
新卒を採用することで、DeNAのカルチャーや開発のスタイルがフィットしやすいメリットがあります。いま既に新卒採用にはかなり注力していますし、これからもっとアクセルを踏んでいきたいと思っています。


「採用目的じゃない」学生が本気で学べるインターン企画設計

ーーデザイナーの新卒採用はどのように行われているんですか?

和泉さん
当社は、採用の始まりから終わりまでが非常に長いのが特徴です。

アート、デザインを志して学校に入った学生が、作品展や『ViViViT』などを通して、何かしらのアウトプットを世の中に発信しますよね。その時点でできるだけ接点を持ち、声を掛けます。そこで学生たちのやりたいことを聞いてみて、それをさらに飛躍させたり、自己実現ができたりする環境が当社にあるかなどのマッチングを見て、合致すれば入社していただく流れですね。

それ以外でこの4〜5年間は、毎年サマーインターンを行っています。当社を知ってもらうひとつのきっかけでもあります。

ーーサマーインターンの具体的な内容を教えてください。

和泉さん
昨年は4名1組の学生に社員のメンターが2人ついて、お題に対してチームで4日間取り組む内容でした。

当社がテーマとして掲げていたのは、「これからのクリエイター人生を考えるひとつのキッカケを提供したい」。これは採用のための選考ではなく、あくまでこれから学生自身が、何になりたいかを考えるひとつのきっかけにしてほしいという思いからです。

さらにもうひとつテーマとしていたのは「多人数でのモノづくりの楽しさを感じてもらいたい」。規模感にもよりますが、ゲームは1人ではなく多人数でつくるもの。だからグループワークにしました。

ーーこれからを考えるきっかけを提供するため、どのような設計をされてますか?

和泉さん
プログラムの中で特徴的なのは、振り返りの時間を毎日入れていることと、学生1人に対してメンター2人で行う個別面談を組んでいること。

初日に「この4日間でどんな成長をする」という目標設定をし、達成できたかを最後に振り返ってフィードバックをすることで、個人の成長にきちんと寄与する設計にしました。

ーー目標設定とフィードバックはどのように行われるのですか?

和泉さん
事前に参加学生へアンケートをとって「このインターンを通してなりたい自分の姿」「そのために足りない技術や知識」「そのギャップに対してこの4日間で身につけられそうなものは何か」を考えていただき、個別面談の場でそれについて話すようにしています。

フィードバックは、1日目の最初に定めた目標についてのKPT(Keep・Problem・Tryの3点で行う振り返り)をその日の最後に行います。しかし 2日目以降はKPTではなく、その日にできたことをみんなで褒め合うミニセッションを実施しました。初日にできなかったことを2日や3日でできるようにするのは難しいので、できたことだけチーム内で褒めあって、できなかったことは忘れようというやり方ですね(笑)。

ーーインターンに参加した学生からの反応はいかがでしたか?

和泉さん
学生からは「新しい自分を見つけた」「できないことができるようになった」や、反対に「もっとできると思っていたけどできなかった」などの感想がありました。

最後の面談では、感動で涙する子が何人かいましたね。当社のインターンは、毎年学生だけでなくメンターも泣くことで知られているんですよ(笑)。最終日には学生が他のチームメンバーに対して手紙を書いたり、僕も想定していなかったのですが、サプライズでメンターから学生へのプレゼントがあったり。結果、終了後のアンケートでは、満足度が非常に高いという回答を得られました。


社員も成長し、企業ブランディングにもつながる

ーーインターンの企画はどのように行われているんですか?

和泉さん
当社のインターンは7つのコースがあり、それぞれを人事と現場の責任者、メンターになる現場の社員と話し合って企画しています。さらに毎年のナレッジの積み重ねと、それぞれのコースで得た情報を共有し合いながら、新しいチャレンジも行っています。

骨組みは人事側でもつくれるのですが、どんなメンバーで・どんな価値を・どんなふうに提供するのか、というコアな部分は、メンター陣と一緒に具体的なプログラムの内容を練りながらつくっています。

楠さん
インターンでも育成でも僕がお願いしているのは、「ゲームという複雑怪奇なプロダクトを、体系的に捉える能力を養えるようなカリキュラムであることだけは死守してください」と(笑)。もちろん難しいお題なので、それを実現するためにどうするかは和泉やメンター陣と話し合いました。

昨年はメンターの選定にもこだわって、ベテランではなく新卒3年目くらいのメンバーをメンターに選ぶというチャレンジをしました。

ーーメンターとして参加された現場の方にも変化はありましたか?

楠さん
印象的だったエピソードがひとつあります。新卒で入社した後に伸び悩みを経験して、最近それを抜け出した子をメンターにアサインしたんですよ。このタイミングで現場仕事じゃない採用のプロジェクトを経験してもらうことで、目線や視野の広さが変わってくるかと思って。

するとその子は、本当にグッと成長したんです。インターン後現場に戻ってきた際のコミュニケーションの質や、物事をどう設計すればどんな結果になるかを考える戦略思考の能力が伸びていました。さらに、それまでは消極的で「あまり他人に興味がありません」というような子だったのですが、学生が成長する姿にとても感動したそうです。

このように、インターンを行うことで今いる社員の成長も促す相乗効果があると思っています。例えば、ンターンの参加学生にメンターが伝えることが、メンター自身にも当てはまることであると気付き、それが成長促進につながる。これはもっと投資すべき取り組みだなと思いました。

ーー学生と社員の双方に良い効果を生むポイントはどこにあるのでしょうか?

和泉さん
課題に対して一緒に思い悩むこと、つまりチーム感を大切にしていました

例えばお題を出して、基本的には学生を見守るという方法もあると思います。悩んだときにだけ答えを提示するような進め方とか。でもそうではなくて、悩んだときには「それって何が問題なんだろう?」とメンターも一緒に考えて、促してあげる。そういうチームになるよう意識をしていました。

ーー数年間インターンの実施を続けていかれる中で、社内外で変化したことはありますか?

和泉さん
社内ではお伝えした通り、社員の成長の機会になったことがいちばん大きいですね。そして対外的には、インターンを続けることでブランディングができてきたと思います。

例えば、僕が学校の説明会で「DeNAはこんなに良い会社です!」と話しても、「本当かな?」と思いますよね(笑)。でも実際にインターンに参加して、社員と触れ合って雰囲気を見て、「こういう会社なんだ!」とわかってもら。そうすると学生の間では口コミやSNSで「DeNAがどういう会社か」が広がり、インターンに参加していない学生にもDeNAを知ってもらうことができます。そのようなブランディング効果があったことは、インターンを始めてから実感していますね。


「DeNAじゃなくてもいい」どこでも活躍できる人材に育てる

ーー入社後の育成の流れについて教えてください。

和泉さん
入社後の研修も、採用と同じく非常に長いことが特徴です。

新入社員の研修期間はおよそ半年。ゲーム事業だと各セクションのエース級社員が講師を務めて、約1ヶ月単位で、3DCGでのモデリングやモーション、エフェクト、UIなど、学生時代に必ずしも専門的に学んでこなかった、ゲーム制作に必要なデザインを学んでいただきます。そこで、自分がつくりたかったものが表現を変えて実現できる喜びを感じてもらうんです。

その後、技術研修からOJTでの現場研修になり、初めて世の中にものを出せる状態になります。

ーー研修にそこまでの時間を費やして、育成を行うのはなぜですか?

和泉さん
DeNAのマインドやカルチャーを体現して会社をより強くできるのは、新卒のみなさんだと感じているからです。

DeNAでは今後の事業展開を見据えて、会社のベースとなる部分をしっかりと支えてくれるような新卒社員を増やし、会社をより強くしていきたいと考えています。だからフェーズや課題も異なる様々な事業に取り組みながら、全員がDeNAという会社としてひとつになるために、共通したマインドやカルチャーを持つことを大切にしています。

ーー技術面の成長も大きいですか?

和泉さん
技術的なところでいうと、そもそも当社が新卒で採用する人材は、ずしもデジタルツールでの表現力が高い学生ばかりではないんです。クリエイターとしての基礎画力や基礎造形力は圧倒的に高いけれど、ゲーム制作に必要とされる専門的なことは特別に学んできていない学生もいます。

でもそういう学生を当社で半年間、ほぼマンツーマンで育てた場合、例えば3DCGを学校で何年か学んだ学生と負けないくらいのスキルを身につけさせる自信があります。もちろん教えている学校のレベルが低いというわけではなく、1人に対して教えられる時間、密度の違いが大きな要因だと思っています。

楠さん
デジタルでの制作経験のない、アートを勉強してきたというメンバーが入社した際に、「パソコンも使えない人を採用したの!?」と思ったこともありました(笑)。しかし研修を経ていくうちにそんなところはすぐにクリアしてしまって、きっちりとゲーム開発のデザイナーとしてのスタートラインに立ったなんてことも。

ジャンルは何であれ本気で何かを学んできたメンバーは、画力など基礎の力もありますし、学生時代に厳しい課題を乗り越えたタフネスもあって、総合的に力のあるメンバーが多いですね。

ーーゲーム開発の研修で、気をつけている点はなんですか?

楠さん
ゲームは、非常に多くの要素が合わさってできている複雑なサービスです。ひと口にクリエイターと言っても、やっていることは様々。だから技術研修の半年間は、その複雑さを体感してもらうのに重要な期間だとも思っています。

ゲームがどうやってできているかの全体像を、ぼんやりとでも知った上でOJTに入るのとそうでないとでは、成長に雲泥の差がありますね。そういうところをしっかりと学んで、「ゲームとは何か?」までを考えられるように、人事やメンターと半年間の研修を設計しています。この研修には、意味を持って投資していると言えますね。

ーー育成を考える上で、大切にしていることは何ですか?

楠さん
DeNAに入ってくるデザイナーには、どんな環境でも活躍できる人材になってほしいと思っています。一生デザイナーとして生きていけるような育ち方をしてほしい、と。

誤解を恐れずに言うと、DeNAだけでキャリアを築くんだと決めてほしくなくて、もっと色々な可能性をイメージしながら成長してほしい。これはメンバーにいちばん伝えたいメッセージでもあります。事業が軸だと言っているのも、結局デザイナーに求められるのは事業貢献だからなんです。

ーー「事業貢献」が軸というのは、どんな環境でも変わらないものですか?

楠さん
はい、どの業界のどの会社で仕事をしても、なんならフリーランスになっても、きっちりと事業に対する役割を果たせるデザイナーが活躍し続けられます。それが基礎中の基礎の素養だし、僕や和泉が関わっている環境では、しっかりとその素養を身につけてもらいたい。

もちろんずっとDeNAで活躍してくれればそれも嬉しいですし、他でしか得られないチャンスがあれば是非チャレンジしてほしい。新しい環境でチャレンジをしたいと思ったときに、躊躇なく自信を持って飛び立てるようになってほしいと心から望んでいます。

和泉さん
デザイン部に限らずDeNAの新卒育成全体でそういう思いはありますし、もし自ら事業を起こしたいという場合には、会社のファンドを利用して起業できる制度もあります。さらに、やってみて失敗してしまっても、戻ってこられる仕組みまでつくっているんです。

「Delight and Impact the World」を達成する手段であれば、当社で事業をつくっても、外で事業をつくっても、また戻ってきても良い。いちばん辛いのは自分が「やりたい」と思ったときに、それをやれる能力が自分にないってこと。だから僕らは採用した責任を持って、成長にコミットしなければいけないなと思っています。

ーー育成に長い時間と労力を費やす、その方針の根幹のように感じました。

和泉さん
当社では、「俺の背中を見て盗め!」ということはしない。手厚すぎると言われることもあるのですが、それでも成長に投資するんです。

ちゃんと走れるようになるまで育てて、かつ、走り出したらずっと走り続けられるような環境を整え、さらに加速できるチャンスまでを提供していきたいなと考えています。

<取材:福島 嵩大(株式会社ビビビット カスタマーサクセス部)>
<執筆・編集:シンドウサクラ>